第1話 不思議な劇団 前編
ここはフィオレン王国。広い土地と美しい緑、様々な地方に分かれ個性ある国。
この世界では魔法使いであろうがなかろうが人は魔力を体にためている。そのため、ほとんどの人々が魔法を使え、魔力を持っていないものはほとんどいない。
始まりはフィオレン王国城下町のある一角。魔法が使えないが元気な少女と不器用だが心優しい少年が主人公の物語が今、始まる――。
「アルっ! オスカー! 早くっ!」
「そんなにあせんなくてもいいだろっ!」
「いえいえ、早くしないと皆さんを待たせることになります」
元気な声があたりに響き渡る。
「早くしたいの! ほら! 走って走って!」
黒髪の少女の名はルナレイン・アルファ。通称ルナ。魔法は使えないが、元気いっぱいな十四歳の娘である。
「だからって、まだ二十分前だぞ! 誰が待ってんだよ!」
ルナにひっぱられている紺の髪の毛の男子。彼はアルフレッド・ディーラ。通称アル。ルナとは長い付き合いで、幼なじみと言っても過言ではない。
「ま、メイクなどもありますので、早めに行って損はないと思いますよ?」
ニコニコと笑顔を向けながら走るのはオスカー・レファール。剣術や雷・水系魔法を使いこなす。
この三人はとても気が合うため、相棒のような存在だった。城下町では「わんぱく三人組」と呼ばれ親しまれているのである。
「ハルヴィ団長! おじさん!」
三人が同時に名前を呼ぶと、「お、来たか」とルナ達の方を向く。
「よ。今日も元気だな、わんぱく組」
五十代前半くらいの男性がニッと笑う。おじさんは物心ついた時からルナ達を助けてくれる優しい人だ。そして三十代くらいの男がハルヴィ団長。
「ね、早くしようよ!」
「そうだな、そろそろ準備するか」
「頑張りましょう」
ルナ達はうなずき合い、あることの準備を始めた。
「さあ、行こう!」
準備を終えたルナ達は光る舞台へと走り出した。
「あっ! ルーヴァ劇団だ!」
だれかが叫ぶ。
……さあ、私達の舞台の始まりだ。
***** *****
数時間後……
「ふぁ~っ!」
ここはルーヴァ劇団の荷車の中。本当は四台ほどあるのだが、ルナたちが乗っているのはよく休憩などに使われているものだ。
ルナはバタッと椅子に座り込む。
「緊張したな」
「お疲れ様です、ルナさん」
タオルをルナに渡してくれるオスカー。アルもフーッと息をつく。
この三人が所属しているルーヴァ劇団とは、ハルヴィ団長率いる劇団。一見普通の劇団だ。
「楽しかったなぁ! もっとしたい!」
「ルナさん、相変わらず上手ですね」
「まさに登場人物が実在しそうな演技だったな」
「えっ? そ、そうかな!?」
ルナが興奮しながら二人に迫る。
「そうだな、やる気だけは一番だ」
外からハルヴィ団長が顔を出す。
「もう! ハルヴィ団長は一言余計なんだから!
いいじゃん、子供にしては上出来でしょう?」
ぷくっと頬を膨らますルナ。それに対して面白がるように笑うハルヴィ団長。
「あ、そういえば言うことがあったんだ。新しい情報が入ったよ」
暖かい空気がピシッと凍りついた。全員、さっきのようにふざけていない、真剣な目でハルヴィ団長を見る。
「……で? どんな情報なんだ」
一見普通の劇団。だが、それには裏がある。
「昨日の夜、”かまいたち”と名乗る盗賊が出たらしい。さて、君たちはどうするんだろうね?」
表は劇団、裏では世直し集団。それが、ルーヴァ劇団の正体。
「行くに決まっている」
「もちろん!」
「引き受けましょう」
そう言って、自信ありげに微笑んだ。
もう日が落ち、真っ暗になった城下町。ある人影があった。
子供――か。
十四、五歳程の子供だが、なかなかの値段がしそうな装飾品をつけている。顔立ちは暗くてよく見えないが、金の長い髪の毛をひとまとめにし、キョロキョロと周りを見ている。王子、もしくは姫、と言っても過言ではなさそうだ。
「……よし、今日はあいつにするか」
黒いフードを被った男がピュルルルルーッ! と口笛を鳴らす。すると、強い風が吹いた。
「うわっ!」
子供が声を上げる。あとは全身切り傷だらけとなるはず――。
だが、黒いフードの男は目を疑った。子供が消えていたのだ。
「……成敗っ!」
「ぐはっ!」
バタン、と黒いフードの男がその場に倒れた。上から男に打撃を食らわせたのは……。
「ありがとうございます、ルナさん」
「ううん、大怪我しなくてよかったね」
「おいっ! コイツを倒した俺には礼なしかよっ!」
黒いフードの男――”かまいたち”を縛りながら、苛立ったように声を上げるアル。
本当はオスカー見回りをし、敵が襲ってきたらオスカーが倒すはずだったのだが、心配になった二人が油断していたオスカーをルナが助け、アルが”かまいたち”に一撃を入れた……ということである。
「ま、なんとかなったんだからいいじゃない」
「はい」
「はい。……じゃねぇっ!」
「なんでおこってるのーっ?」
三人で笑い合う。
幸せな瞬間。
こんな時が、いつまでも続けばいいのに。そう、願う。
(……あっ!)
ふと、ルナが立ち止まる。
「……? どうした? ルナ」
「行きましょう?」
だんだん、口元がほころんでくる。
「……ううん、そろそろ……行こう!」
そう言って、ルナ達は走り出した。
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