2 大波乱のデート

【葵side】


ど、どうしようっ……。

私は9時半を示す時計を見て、茫然と立ち尽くす。

確か集合は大きなモニュメントで、10時だったはず。

髪はハーフアップにして、青いリボンでまとめておいた。

持って行くかばんも決まっていて、靴も選んだ。


だが、決まっていないのは。


「ホントに何にしよう……」


私はクローゼットの前に立ち、ハンガーにかけられた服を見つめる。

お互い、これと言った私服を見ていないわけで、逆に何を着ればいいのかがわからないのだ。


そして、ギリギリまで迷って薄い青色のワンピースを選んで待ち合わせ場所に急いだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「こ、こんにちは……」

「…………っ⁉」


モニュメントに近づくと、そこにはもうすでに悠河さんの姿があった。

私服姿までかっこいいっ……!

一目見てそう思ったけど、もちろん口には出せず心の中にしまっておく。


そっと声をかけると、彼は私を見て目を見開き、じっと私のことを見ている。


「あ、の……。服、変ですか……?」


私が心配になってそう言うと、彼が真っ赤になって首を振る。


「ええと、その――か、か」

「か……?」

「かわいかった、から……」

「えっっ……」


照れたように横を向いて言う彼の耳が、若干赤くなっているような気がする。

それにつられて私も顔が赤く染まった。


「あ、あのさ、今日は水族館行こうと思ってるんだけど、どうかな?」

「水族館ですか……!!すごく久しぶりな気がします……!」

「ふふ、じゃあ行こっか」

「はいっ」


満面の笑みで笑いかけると、悠河さんも優しく笑ってくれた。

その笑顔がずるすぎる。

こんなにも胸が高鳴ってしまうなんて、いつの間にこんなに好きになっていたのかな。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その後はすごく楽しかった。

1時間くらい水族館を見て回って、それからイルカショーを見に行った。

少しだけ水がかかって、「この距離で水かかるの⁉」と言って笑っていたけれど、それもすごく楽しくて。


ぼーっとしていたからだろうか。

ポン、と優しく肩を叩かれる。


「なに、迷ってる?」

「あ、えっと、そうなんです。これと、これ、どうしようかなあって」


実はお土産コーナーに来て、何かを買おうって話になった。

彩ちゃんに渡せるものがあったらよかったんだけど、キーホルダーか、お菓子か、どっちにしようかなって。


あ、そう言えば……!


彩ちゃん、確かクッキー好きだった気がする……!!

それを思い出して、目の前のクッキーを手に取る。


「これにします。あ、悠河さんは何か買うんですか?」

「うん。いいものあったから、それをね」


ほら、とお土産袋を指差す。

いいものがあったならよかった……。


私もレジに並びながら、あたりを見回してふとあるものを見つける。

か、かわいいっ……。


いいものを見つけた。

目についたのは、青色と、ちょっと薄い青色のイルカの2つのキーホルダー。

ペアになっているのだろうか、イルカの体に小さな赤いリボンがそれぞれついていて、つぶらな瞳がかわいらしい。

値段を見ると、そこには400円の文字が。

ひっ……。

たか……。


ハッとお財布を手に取るも、この後の予定を考えると買うことがためらわれた。


せっかくなら悠河さんとおそろいを買いたかった。

それは私の願望かな……。


また、来ればいいよね。

ちょっと残念な気持ちで待っている悠河さんを探す。

待たせちゃったかな……。


そう思いながら、歩いていた時だった。


「ねーねー、君高校生?これから遊ばない?」

「めっちゃ可愛いじゃん、間近で見るとやば……」


二人組の男の人たちが話しかけてきた。

これは……。

いわゆる、ナンパと言うやつか。

な、ナンパって普通もっとかわいらしい子がされるやつでは……。


すうっと背筋が凍って、手が震える。


「あの、私……」

「困ってるところとかちょーかわいーじゃん」

「ほら行こ?」


手を握られそうになって、ハッとその手を振りはらう。


「やめて、ください……!」

「ちゃんと言うこと聞けねーのかよ……チッ……」


手を振り上げられて、全身がこわばった。

衝撃を覚悟した、その瞬間目の前にいた男の人が「ぐっ」と変な声を上げてよろめいた。


「俺の彼女に何してるの」


この、声は……。

振り返ると、そこには怒りに満ちた表情の悠河さんがいた。

悠河、さん……!


「おいおい、彼女持ちだったのか?」

「そんなの知るかよっ……取りあえず退散だ!」


私をキッとにらみつけた後、男たちは走り去っていった。


「大丈夫?ごめんね?」

「ありがとう、ございます……!」


安心したその瞬間、涙が溢れそうになって我慢する。


すると彼はそっと私の手を取って、私の顔を覗き込む。


「お昼食べたら、海、見ない?」

「いいですね……!見たいですっ」


私がそう言うと、彼は嬉しそうに笑って手に力を込める。

私もそれに応えるようにして握り返す。

そこだけ、とても熱かった。






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