1 勝利と、敗北と

 キュッ。ダンダンダンっ……シュッ!


 あと、三分で試合が……!


 ここは男バスの夏の大会の会場だ。


「葵ちゃん、緊張してる?」

「う、うん……。私なんか、来てよかったのかな……」

「なんかなんて言わないで!……悠河君、あそこにいるよ?」


 隣に座る彩ちゃんが、「ほら!」と指をさす。

 ばっとそっちを見ると、コーチの話を聞いている姿が。

 そして、話が終わったのか、練習着を脱いでユニフォームになった山崎さん。

 ピッと審判の笛で、試合が、始まった。


 そう。

 ――ここの中学の男バス史上、初めての県大会、決勝戦が今、幕を開けた――。



「う……惜しい……」

「おおっ!ス、スリー!葵ちゃん!見てたっ⁉」


 見てない。

 ハラハラしすぎて、見れない……っ!

 実際、さっきまで10点差で勝っていいたはずなのに……もう4点差で負けている……。


「タイムアウト~白!」

「葵ちゃん、タイムアウトだから目、開けな?」


 うー。

 そっと目を開けると、彩ちゃんと目が合う。


「ふふっ。ほんとに目つぶってるとは思わなかった……ははっ。ね、観戦来てるんだよ……?」

「だ、だって、怖くて……」

「だいじょーぶでしょ?だって、悠河君に、陽向君に……」


 そうだ。

 みんな強い人たちだから、大丈夫……。


「信じてあげな?ね?」

「うん……」


 そう会話している間にも、ゲームが進んで、いよいよ、最後の8分になってしまった。


 そして、五、六分後。


「…………」

「……っ……」


 この時間が始まってから、最初は声を出していたけど、もうみんな黙ってしまっている。

 そのかわりに、声を上げて盛り上がっているのは、私たちの反対、敵コート側だ。


 なぜか、それは得点を見ればわかる。


 ろ、六点差……っ⁉

 残り時間は二分。

 どっちも攻撃がすごくて、取っては取られての繰り返し。


 今も陽向さんがスリーを打ったけど、外れてしまった。

 でも、そのリバウンドを取ったチームメイトがシュートを決める。


「おっ……」


 隣から声が上がる。

 二点、入った……!

 これで点差は四点。

 でも、この後の敵の攻撃で……。


 そう思っていると、8番の男子がボールをカットして、素早く敵陣に攻める。速攻そっこうだ。

 そして私たちのチームに二点が入る。


「す、すごい……っ!」

「うん!がんばれーっ!」


 あと二点。

 勝つためには、スリーを入れないと……!


 さっきまで黙っていた彩ちゃんも、コートに向かって叫ぶ。

 その目から、一筋の涙があふれる。

 彩、ちゃん……。


 私も込みあがってくるものを、何とか抑えて、叫ぶ。

 私は信じてる。


「が、頑張ってー……っ!」

「がんばれーーっ!負けるなぁーーっ!」


 残りのカウントが、三十を切る。


 負けられない。

 視界が、涙で見えなくなる。

 ダメ、ちゃんと見たいのに。


「山崎さん……っ!頑張ってっ……くださいっ!」


 届け、届け……!


 カウントが、残り、五、四、三……。


「……っ!……」


 ボールが、きれいな弧を描く。

 そのまま、吸い込まれるかのように、リングに入る――ように見えたけど、ガコンッという音が響いた――。

それがすなわち、何を示すのか――。


 ピッとホイッスルが鳴る。


 それと同時に、私の目から、こらえきれなかった涙があふれた。


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