1 希望は壊された

 今年の夏は暑いと聞いていた。

 でもその中で、みんな一年前と変わらず、もうすぐある夏の大会に向けて頑張っているのだ。

 二年生や、一年生はいない。

 今年からクラブへに移行が始まるとかどうだか。


「解散ー!」


 三年生になり、チームをまとめているのは、ユリカさん。


「葵ちゃん、今日は先に帰るね」


 そう私に声をかけてきたのは、彩ちゃん。

 今は陽向さんと付き合っているようで、私といる時間は減ったけど、そんなの、気にしてない。

 幸せそうで、よかった……。



 今日は自主練だったから、片付けとかしなくてよさそう……。

 ほ、と息をつきながら、荷物をまとめ、鍵を閉める。

 もう一つの体育館も見て回ろうと、そっちへ向った時だった。


 ダン、ダン、ダン、とあの時と変わらぬ風景が、そこにあった。

 期待して、ちら、とみてみる。

 すると、やはりシュート練をしているのは山崎さんで。


 山崎さん……!

 部活終わりに少しは話せるときがあったけど、しっかりと話せたのは、夏祭りが最後だ。

 すごく熱心だなと思った時だった。


 シュートが、曲がっている。


 こんなことはなかった。

 少なくとも、こんなに曲がったシュートを打っているのを、見たことがない。


 見間違い……?

 ごめんなさいっ。でも、ほんとに言い過ぎかもしれないけど……私でも、あそこまでは曲がらない。

 もしかして、熱中症?


「大丈夫ですか……!」


 思った時にはもう、体が動いていて、たまらず声が出る。

 そんな私を見て、「葵ちゃん……⁉」と驚く声が聞こえる。


「どうしたの?」

「え、あ……。熱中症じゃないんですか……?」

「え?」


 恐る恐る聞いたら、ぷっと噴き出して、山崎さんが笑い始めた。


「ね、熱中症?俺が?」

「え、ち、違うんですか?」

「なんでそう思ったの?」


 そう聞かれ、答えに戸惑う。


「えっと、意地悪とかじゃ、ないんですけど、さっき見たシュートが、曲がっていたので……」

「そんなに曲がってた?」


 え?

 さっきのシュート、曲がってたこと、わかってない……?


「か、かなり……曲がって、ました、ね……」


 ためらいがちにそう言うと、彼は笑うふうでもなく、静かに「タイムアップか……」と言った。

 その顔があまりにも真剣で、私は目を見開く。


「なにが、タイムアップなんですか?」


「ホントは話さないつもりだったんだけど、この際聞いてもらおうかな。葵ちゃんには話しておこうって思ってたから」


 なんでそんな悲しそうな顔をするの?

 そんな……寂しそうな顔、しないで……。

 聞くのが怖いけど、耳をふさぐより先に、山崎さんの声が耳に届く。


「俺さ、転校するんだ」


 その言葉は、私の中にあった希望を壊すのには十分すぎるほど残酷だった。

 目の前が、冗談でもなく真っ暗になった。

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