3 闇の中で見る光

 パンっ‼


「わっ!」

「おめでとーございます―!えっと、5等ですね。こちらになります」


 そう言って渡されたものを、私の手に乗っけてくれる。


「朝顔のグラスコップだって。お土産にしてよ」

「ありがとうございますっ……!」


 そう、なんと射的で見事商品をゲットしてくれたのだ。


「大事にしますっ……!」


 そう言えば、嬉しそうに笑ってくれたのだった。


「そろそろ始まるね、行こう」


 そっと私の手をつかんで、花火を見るために場所を移動した。


 ―――――――――――――――—————————————————————


「ここ、俺が知ってる隠れスポット。よく見えるんだ、ここ」

「そうなんですか……!」


 連れてこられたのは、木が生い茂る高台。

 何度も来ているけど、知らなかった……!


「花火がうちがるまで、十、九、八、七――」


 あ、そろそろだ……。


「五、四、三、二、一……」


 ドーンっ‼


「わあっ!きれいっ……!」

「すごいな……」


 ドーン、ドーンと打ちあがる花火を、ただひたすらに見つめる。

 何も話さないけど、その無言が、より一層花火を引き立てているんだと思う。


「くそっ……今日に限って、見えない……っ」


 え……?

 何か、言った?

 何か言ったように聞こえたけど、花火の音で聞き取ることができなかった。


「あの、何か、言いましたか?」


 そう聞けば、「ううん」と首を振る。


「ただの独り言。気にしないで」


 そうつぶやいた、彼の顔は、いつもと違うように見えて……すごく悲しい表情だった。


 そんな顔、しないで……ください……。


 一通り花火を見たところで、山崎さんがふとこっちを向く。


「葵ちゃんって、好きな人、いないの?」

「え……?」


 好きな人、いないの、って……。

 それが、あなたです、なんて、言えないよ……。


「……山崎さんは……?」


 聞いてはだめだというのは、もちろんわかっていたが、好奇心が勝る。


「質問を質問で返すの?それじゃあ、俺もノーコメントで」


 教えてくれないよね。

 どこかで期待してしまった自分がいたことに驚く。


「気になる子はいる、けどね」

「そうなんですか……!」


 山崎さん、好きな子いるんだ……。

 山崎さんならどんな女子でもオッケーしてくれると思うけど……。


「……。あの、二人は大丈夫でしたかね?」

「大丈夫だと思うよ。陽向、なんだかんだ言ってフレンドリーで気が利くし。結果は後で教えてもらうけど」

「うまくいくと、いいですね……」


 そう言った私を、見つめる。


「葵ちゃん、今日はありがとう。あの二人には連絡入れておいたから、帰ろっか?」

「はい、それじゃあ、また」


 名残惜しい。

 こんな奇跡のような時間が、ずっと続けばいいのにって何度も思った。


「葵ちゃん、一つ言い忘れてた」


 そう言った山崎さんは帰ろうとした私の手をつかんで、私の目を見つめる。


「今日、楽しかったよ、特別な時間だった。……そう、今日は特別な日」


 まるで自分に言い聞かせるように、そういった山崎さん。

そう言った彼が、あまりにも真剣で、急に遠くにいるように思えた。


「待って……」


ここで引き留めないと、彼がどこかに行ってしまいそうで。

あわてて、引き留めた。


「え、何かあった?」


そう聞かれてしまえば、何も言葉が出てこなくて。


「なんでも、ないです。ごめんなさい……」

「それならいいの。じゃあね、また」


 そういって今度こそ、奇跡の時間が終わってしまった。


『そう、今日は特別な日』

 彼も、私と同じことを思ってくれていたことを知って、ドクン、と心臓が鳴る。


 ――この日は、一生……忘れません。


 そう思えるほど、今日は特別な日だった。


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