2 ひと時の幸せを

 ドーン、ドーン。


「ご来校の皆様、本日は誠にありがとうございます――」


 賑わいを見せる大通りは、車は通れないようになっていて屋台がたくさん出ている。

 そう、今日は夏祭り。通称、ツツジ祭。


 待ち合わせ場所は、確か大きなモニュメントの下。

 ここら辺では、モニュメントと言ったらだいたいこの場所しかない。

 だからあってるはずなんだけどな……。


「わーっ!かわいー!葵ちゃーん!」

「え?」


 誰だろう、でも、この声は……。

 振り返ると、そこには彩ちゃんの姿が。

 藤の花があしらわれた浴衣を着ている。

 ちなみに私は朝顔の浴衣だ。


「か、かわいい……っ!」


 思わずそう声に出せば、ばしんと肩をたたかれる。


「そんなこと言って葵ちゃんもかわいーんだからね、もっと自覚しなきゃ!」

「自覚……?私、そんなにかわいくな――」

「もう!そんなこと言わないでよ。ほら、悠河君、悲しむよ?」


 なんで、山崎さんがでてくるの……っ⁉


「も―バレバレだってば。だって、好きなんでしょ、悠河君のこと」

「っ……‼‼」


 絶対今、顔真っ赤だ。


「な、んで……」

「いやーわかりやすいよ。うん、前と全然違うなーって感じてたし」


 ううっ……。

 まさか、彩ちゃんにまでばれていたなんて……。


「彩ちゃん、あの……ユリカさんたちには、言わないで……」


 もう、ばれているから遅いかもだけど……。

 そんな私を見て、「大丈夫!」という彩ちゃん。


「そんなのわかってるってば。応援してるからね」

「ありが、とう……!」


 彩ちゃんの優しさに感極まっていると、すぐ近くで声がした。


「葵ちゃん、今日はありがとう、ホント」

「あ、山崎さん……」


 ふりむいたところには、甚平を着こなした、山崎さんと……陽向さん。

 陽向さんは初めて会うけど……すっごく優しそうな人だった。


「やっほー初めまして、葵ちゃん、彩ちゃん」

「こちらこそ!今日はよろしく!」

「あ、よろしくお願いします……」


 無事に集合できてよかった……。


「あと一時間後に花火が打ちあがるらしいんだけど、それまでどうする?」


 陽向さんのその言葉に、山崎さんが「あ、それなら」と言って、屋台の方を見る。


「なんか買ったりして、時間つぶせば?」

「なるほど……。いいと思います」


 多分これは、陽向さんと彩ちゃんを二人きりにさせるため。


「四人で行動してもあれだし、グッパしよ」


 グッパって、あの、グーとパーでチーム決めるやつ……。

 グッパって、二人きりになれるかな……。

 そう思っていたら、同じことを思ったらしい山崎さんが私に「絶対パー出してね」と耳打ちしてきた。

 な、なるほど……。


 そうして見事、山崎さんの作戦勝ちで、ペア行動になったのだった。

もちろん、パーが私と山崎さん、グーが彩ちゃんと、陽向さんというペアで。

 ――――――――――—————


「何食べたい?」

「あ、えっと……」


 向こうが二人きりになるのなら、こっちも二人きりになるわけで。


「何でも、いいです……」


 周りの視線が気になって、前を向いて歩けない。

 山崎さんみたいなかっこいい人の隣に、こんな人がいても……。


「何でもいいの?なんか決めてよ」


 困ったようにそう言うから、私は迷った末に目の前の屋台に書かれた文字を読み上げる。


「クレープがいいです……」


 小さな声でそうつぶやくと、「りょーかい」といって、嬉しそうに屋台の前に並んだのだった。



 私が頼んだのは、イチゴクレープ。

 すっごくおいしかったんだけど、気がかりなことが一つだけある。


「あの、お金……」


 そう、お金だ。


「気にしないで。ほら、せっかくなんだからもっと嬉しそうにしなよ」

「あ、はい……。あの、ありがとうございます……っ!」


 そう微笑めば、山崎さんが私のことを見て何度も目を瞬く。


「え……?」


 なんだったのかな、と思ったら、すぐに「大丈夫」と笑って小さく笑う。


「調子悪いみたい。せっかくの日なのに」

「え、それならどこかで休んだ方が……」

「いいの。大丈夫って言ったでしょ」

「でも……」


 意見を変えない私の目を見て、また、つぶやく。


「大丈夫」


 そう言われてしまえば、抵抗することなんてできなかった。

 かわりにドキドキと心臓が高鳴る。


「ほかに食べたいもの、ある?」


 さ、っと私の手を引いてまた歩き出す。


 ちょうどその時、「あと三十分で花火が打ちあがります――」というアナウンスが流れた。

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