1 その言葉の意味
ダンダンダン、相手の目を見る。
……今だ!
一瞬の隙を見逃さず、カウンターを取って攻める。
シュート……っ!
そう思うと同時に、小指に激痛が走る。
がこん、と音がして、リングから落ちる。
そんな……っ。
そこで、そのボールがコートから出て、ピッっと審判の笛が鳴る。
「こうたーい、青!」
「葵だよー」
私……っ⁉
やばいっ……!
「……七番」
「オッケー」
交代の子に、
コートから出た途端、ユリカさんの声が届く。
「あーあ、せっかく試合に出してあげたのに、シュート外すとかありえないから。ほら、座ってなよ、役立たずさん」
背中が凍り付く。
そうだ、今までは土日の練習試合とか、リーグ戦とか出してもらえなかったのに、今日だけなんで、って思ったもん……。
そう、今日の練習試合だけ、スタメンだったから……。
今日は先生がいない。
厳しい先生がいなくてよかったと思う反面、嫌な予感がしていた。
いないということは、ユリカさんたちが何かしてくるだろうって。
それに、ユリカさんたちの私へのあたりが、強くなった気がする。
「ほらほら、そこにいても邪魔だから」
「……」
その場に硬直していたことを思い出し、座る。
前のけが、治ってないからかな……。
ズキズキと痛む小指を見てもう一度新しいものに変えておこうと思い、体育研究室へ向かう。
その途中、もう一つの体育館で、男バスがやっている音が聞こえた。
今、男バスいるんだ……⁉
今まで、練習試合中とか、外になんて出なかったから分からなかった。
いる、かな……。
淡い期待を胸に、ちらっと見てみる。
いた……。
姿をとらえた途端、静かな心臓が、とくとくと脈打つ。
すると、山崎さんが入口に向かって走って来る⁉
え、と思って、固まっていると、「何か用事かな」と言って、紳士に対応してくれる。
用事とかそんなの無いのに……。
「……なにも、ないです……」
「あ、見学?うん、合間にでも見に来て。時間があれば、ね」
「あ、その……。ごめんなさい」
こんなことのために駆け寄ってきた山崎さんに申し訳なく思う。
「謝らないでよ。あ、ちょうどいいや。あと……」
あと?
何か……あったっけ。
「話したいことがあるから……あの、練習終わったら、また体育研究室で、集まれないかな……?」
「体育研究室ですね、わかりました……っ」
その後のことなんて考えず、即答する。
「本当に?ありがとう……!じゃあ、またあとでね」
「はいっ」
前、ユリカさんにひどいことを言われたことよりも。
このあと、噂になったとしても。
少しでもたくさん話したい。
そばにいたい。
私の想いは、変わらない。
きっと、彼に出会ってから、私は毎日少しづつ惹かれていて、君となら頑張っていける、そう思えるようになったんだよ。
そして。
いつものように片づけを終わらせ、体育研究室へ向かう。
「来てくれたんだね、ありがとう」
「いえ……」
そんな、お礼を言われることじゃないのに……。
「あのさ、今年、地域の夏祭り、復活するらしいんだけど、知ってる?」
地域の、夏祭り……。
「もしかして、ツツジ祭のことですか……?」
「あ、そうそう。ツツジ祭、そのことなんだけどさ……」
ドクン、と心臓が高鳴る。
「もしよかったら、俺と、一緒に行ってくれないかな?」
え……。
一緒って、二人、で?
固まった私を見て、彼があわてて訂正する。
「あの、俺だけじゃなくて、もう一人、陽向ってやつがいるんだけど、あー……」
「え、っと?」
「一から話すね、ごめん!えっと、俺の友達の陽向ってやつが彩って子が好きみたいで、誘うの厳しいから俺とならどうかな、みたいな……」
「それってつまり、えっと、山崎さんと、その、陽向さんと、彩ちゃんと、私ってことですか……?」
なんとなく理解した私に、大きくうなずいて「そうそう!」と言ってくれる。
そこで、一つ疑問が出る。
「あの、それなら私抜きでも……」
そう、私がいなくてもいいはず。
なんで、私……?
疑問に思う私に、山崎さんが「えっと……」と言葉を濁す。
「それは……俺が、一緒に行きたいから……」
「え?」
彼の言葉を理解するより先に、「じゃあ、よろしくって言っておいてくれる?じゃあね、気をつけて!」といって、帰ってしまう。
『それは……俺が、一緒に行きたいから……』
その言葉を頭の中で整理する。
私は心の中でつぶやく。
聞きたいことがあります。
その言葉は、どうゆう意味ですか?
その言葉は……。
期待してもいいんですか?
夏の空に浮かぶ太陽は、ただ私を眺めるだけだった。
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