#END-3/3 おまけ 真白先生の手記

 真白ましろです。真白悠理ゆうりです。

 六専学院で教師をやっています。

 本を読むのが好きで、文芸部の顧問もしています。

 

 家族は旦那が一人と、子供が一人。

 訳有って実子ではないのですが、養子として迎えたシロちゃんという子です。

 家族仲良く、日々幸せに暮らしています。


 そんなわたしですが、思う所あって、色々と書き留めておきたい事があったので、今回筆を取りました。

 誰に見せる予定も無いですが、もしこれを読んでいる人が居たら、その内容はあなたの胸に留めておいてくださいね。

 


 さて。火室かむろと天野さん、二人の活躍によって、一連のスキルホルダーたちにまつわる事件は一端の終局を迎えました。

 プラスエス、スキルホルダー解放戦線、天の光信仰教会、それら組織は全て解体されました。

 いずれ、まだ本島に残る子たちも保護され、六専特区に集まる事でしょう。

 

 そうやって、いずれ何もかもが納まる所に納まるはずです。

 そう、いずれです。今はその未来へ続く道の道中なのです。

 

 つまり、今は歴史の過渡期なのだろうと、わたしは思います。

 天の光現象を境に別けられる、第六感症候群の存在しなかった旧世代と、今から地続きの未来に生きる新世代。

 その移り変わりの途中なのです。


 では、肝心の天の光現象とはなんだったのでしょうか。

 これはわたしだけでなく、S⁶シックス技術班の旦那から聞いた話や、その友人のMGCスタッフなんかから聞いた話、あとは火室君たちを見ていて、自然と集まった情報を元にした推測に過ぎません。

 ですが、確かにそうなのであろうという確信がどこかにあります。


 天の光現象とは、当時の人類の見た集団幻覚なのでしょう。

 そして、その幻覚の光の中に、超能力の存在を信じ込ませる“サブリミナル効果”の様な光のパターンが含まれていたのだとすれば。

 それはきっと運命のいたずらだったのでしょう。

 

 天の光エネルギーとは、世界に元々存在していて、人類がまだ認識出来ていなかった未知のエネルギー物質です。

 それを天の光信仰教会の前進組織は、おそらく科学的な理論ではなく感覚で、それこそ神の力の様なものとして捉えて、知っていたのでしょう。

 これまでの人類史の中で時折現れていた自称超能力者の中には、実はインチキではなく本物が紛れていたのかもしれませんね。


 天の光エネルギーは水の様なものです。

 普段は気体の様に宙に微量が漂っているだけのそのエネルギーは、時折結晶の形を取って固体化し、触れられるようになります。

 水は蒸発し、雲となり、雨として降り、循環します。


 天の光エネルギーもまた、その循環の周期が異なるだけで同じ事なのでしょう。

 偶々、18年前のあの日、天に蓄積していたエネルギーが降雨するだけの量に達し、降り注いだ。

 

 あの現象をわたし自身、この目で見ていました。

 それはそれは美しく、神秘的な光景でした。その中に神を見出しても無理はない事でしょう。

 こうして、全世界の人類は超能力の実在を思い込み、エネルギーがそれを現実の物にしてしまった。


 こんなにも不思議な現象なのに、プラシーボ効果とサブリミナル効果の2つだけで説明出来てしまうのですから、ロマンが無いですよね。

 ただの思い込みでも、そこにエネルギーが加われば実際に起きてしまう。たったそれだけの事です。

 

 では、どうして直接浴びた大人では無く、その子供世代が発症したのか。

 これはとても単純な事です。

 彼らは純粋無垢だったからというだけの事です。真っ新なキャンバスには好きな色を乗せられます。

 

 純粋無垢な子供たちは、超能力の存在を疑う事は有りません。

 何故なら、産まれ落ちたその時から世界がそれを存在するのだと認識していたものだったからです。


 例えばそれは産まれる以前からインターネットの存在した世代と、生まれた後にインターネットが出来上がった世代との感覚の違いのような物。スマートフォン世代の人間とそれ以前の世代の人間――という例えは、少しおばさん臭いでしょうか。なんだか恥ずかしいですね。

 ともかく、そんな感じです。

 

 心の底から存在を信じ、思い込むことが出来た子供たちだからこそ、第六感症候群を発症してしまったのです。

 

 つまり、理論上は大人だからスキルホルダーになれないという説は少し間違っています。

 自分は超能力を使えるのだと思い込む事さえできれば、大人も子供も関係なくスキルホルダーになってしまえるのです。

 それはウイルス薬や祝福の儀式という形を取って、悪しき大人たちの手によって実証された事実です。


 では、この天の光エネルギーと第六感症候群のメカニズムについて、正確な情報をまとめて世間に公表すると、どうなるのでしょうか?


 実際に超能力なんてただの思い込みだったと認識してしまえば、現スキルホルダーたちの第六感症候群を完治せる事が出来るのでしょうか?

 この世界からスキルという存在を抹消出来るでしょうか?


 いいえ。わたしはそうは思いません。

 かの教祖は自分は知っているから、思い込めないからスキルホルダーになれないと言っていたと聞きます。

 ですが、それは単に他の誰でもない彼が、彼自分を信じていなかったからに過ぎないでしょう。


 火室君や、天野さん、シロちゃんや、雨上あまがみ君を見ていれば、分かります。

 彼らは第六感症候群のメカニズムを理解しました。自分たちの手で、真実に辿り着きました。

 しかし、彼らは完治するどころか、強いスキルを有したままです。

 それどころか、雨上君に至っては、真実を知って以降、自分の手で他人のスキルを拡張できるようになるという進化を遂げてすらいます。


 この事からも分かる通り、もしこの真実が世間に公表され明るみに出れば、完治とは全く逆の事が起こると推測できます。

 

 知る事、理解する事は想像の解像度を高め、思い込みはより強固な物になるでしょう。

 おそらく、今はスキルホルダーではない大人たちも、自分もスキルを使えるんだと思い込み、発症を始めるはずです。

 そうなれば、一気に世界は新世代――つまり、スキルホルダーの時代に突入します。

 それは、とてもよくない事です。


 今は、まだいいんです。

 ゆっくり、ゆっくりと世代を重ねながら、人類はスキルホルダーに置き換わって行きます。

 その流れの中で少しずつ世界も変化していき、適応できるからです。


 でも、一気に全人類がスキルホルダー化するなんて事が起きてしまえば、誰もそれに適応出来ません。

 混乱、暴動、戦争。あらゆる最悪が想像できます。


 ですから、わたしたちはその真実を包み隠さなくてはいけません。

 かつての天の光信仰教会の前進組織の様に、人類が上手く変化に適応出来るように、歴史の裏で動くのです。

 それが、これからのS⁶シックスの役割なのでしょう。

 

 ……まあ、もう辞めたわたしにはそれは関係のない事です。

 今のわたしの仕事は、そんな世界で子供たちが健やかに成長していけるように、先を生きる者として導く事なのですから。


 ですが、真実というのはいつまでも隠し通せるというものでは有りません。

 またプラスエスや天の光信仰教会の様な、スキルを悪用しようとする者たちが現れるでしょう。

 それでも、きっとそれはその時の世代の子たちが向き合う問題です。

 今回はそれが火室君と天野さんだった様に。

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【完結】六専特区の一般生徒《スキルホルダー》 ~20XX年、光の雨によって超能力に目覚めた子供たち~ 赤木さなぎ @akg57427611

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