第15話 テスラカフェへようこそ!

テスラカフェには大勢の人達が集まっていた。人々は店の外まで集まり、各々が笑顔で話している。店の扉は開け放たれ、赤いカーペットが外まで続き、花で飾り付けをしてあったりする。外の方までテーブルが出され、食べ物や飲み物がたくさん並べられている。

いつもはお客さんのカジさんがテスラカフェの従業員用の服とエプロンをして、大きな身体で慣れない仕事を忙しそうにしている。

「おい!ゴリラ!料理あがったから、持ってけ!」ケイティーがいつも以上に忙しそうに動き回り、カジを呼び止める。

「おう!ケイちゃん!俺達も結婚しようぜ!」ガハハとカジが豪快に笑い、料理を持つ。

「おまえな…マジでぶっ殺すぞ…?冗談じゃねぇくらい忙しいんだ…」ケイティーが手を止め、空気が変わる。カジの顔が血の気が引いていき「おう…すまねぇ」と料理を持っていく。

「ケイティーはカジさんには冷たいですよね?何故です?」白いタキシードを着たテスラがコーヒーを飲みながら、聞いてくる。

「テスラ…優雅にコーヒーを飲む暇があるなら手伝えよっ!?」ケイティーが目くじらを立て怒る。

「申し訳ありませんが本日は私、お休みなので」テスラはソーサーとカップを持ち、わざとらしく美味しいとカップを傾ける。

「マジで人選ミスだろ!何であのゴリラと私、それ二ャニャガルさんとニャリーナさんだけで回さなきゃなんねーんだ!」ケイティーが歯を食いしばりながら、大きなフライパンを振る。

「ケイティーにはいつも感謝しています。このお店は貴女が居たおかげで開けたようなものですから。それにもう少しで落ち着きますよ」




裏の従業員用控え室にはニャコブとニャリーナが居た。ニャコブは真っ白なドレスに身を包み、黒い尻尾の先には白いリボンを巻いている。毛並みはいつも以上に整えられ、ドレスはたくさんのレースで華やかに仕上げられている。誰が見ても見惚れてしまうような美しさだ。

「緊張して吐きそうにゃ…」ニャコブが口を抑える。それを見たニャリーナがクスクス笑う。

「吐いたらドレスが台無しにゃー緊張する事ないにゃー」

「緊張するにゃ!皇帝の妻にゃんて、私に務まるとは思えないにゃ!」ニャコブが青い顔をする。すると、ニャリーナがニャコブの身体を両腕で優しく包む。

「大丈夫にゃーニャコブちゃんはどこに出しても、恥ずかしくない素敵な娘にゃー」ニャコブの頭を優しく撫でる。

「それににゃーテスラちゃんは今のままのニャコブちゃんが好きなんだと思うにゃーだから王妃になっても変わらずで良いにゃー」ニャコブが静かに頷くと、裏口から声をかけられる。

「ニャコブさん。そろそろ出番ですよ」

「わ…わかりましたにゃ!」ニャコブが返事をしニャリーナに振り返る。

「行ってくるにゃ」

「行ってらっしゃいにゃー」ニャリーナが笑顔で送り出す。

裏口からニャコブが出て行くと表にはたくさんの常連のお客さん達やテラスラープ亭の従業員、ニャコブの村の人々が赤いカーペットの両脇に立っている。緊張し、肋骨に心臓の鼓動が当たる。歩いてカーペットの前にまで行くと皆が拍手し、出迎える。カーペットの前には父のニャニャガルが黒いスーツを窮屈そうに着て立っている。ニャコブが隣に立つと、こちらを見て優しく笑う。

「とても似合っているよ。お母さんそっくりだ」ニャコブがぎこちなく笑う。

「ありがとにゃ」

「すまんかったな…色々説明できんくて…」ニャニャガルが顔を下に向ける。

「いいにゃ!今思えばお父さんとお母さんらしいにゃ。私が皇帝と結婚するの本気で嫌と断った時に、助けるつもりだったにゃ?」

「当たり前だ。相手が皇帝だろうが、嫌がる娘を無理やり結婚なんかさせない。そん時はお前と母さん連れて逃亡するつもりだった」ニャコブが尻尾で口を抑え笑う。

「だからってテスラが婚約者だって教えてくれないのは酷いにゃ。分かってたらもっとデートとかしてみたかったにゃ!」

「それは…可愛い娘を取られたくなくて…いや、デートならこれから沢山すればいいだろ?」ニャコブが少し膨れる。

「お父さんは分かってないにゃ!結婚する前と後だと違うにゃ!結婚前のデートは一生出来なくなったにゃ!」ニャコブがわざとらしく溜息をつき、ニャニャガルが「うっ…」と怯む。

「すまんかったよ…本当に…」

「今回は許すにゃ!」ニャコブがニッと笑うとリンゴーン、リンゴーンと帝都の時の鐘が鳴る。

「時間だな」ニャニャガルが右肘を出し、それにニャコブが掴まる。2人はゆっくりとバージンロードを歩いて行く。拍手が2人を迎え、コーヒーの良い香りがする店の中に入って行く。中ではいつもの従業員用の服ではない、微笑むテスラが立っている。店の外からの光を浴び、青い瞳がいつも以上に美しく輝く。ゆっくりと2人はテスラの前にまで行き父と離れ、テスラの隣に立つ、耳にルビーのピアスを付けた青い髪の女性が喋り出す。だが緊張でニャコブの耳には入ってこない。辛うじでテスラが「誓います」と言った気がし、私も「誓います」と言った様な気がする。左手の薬指に嵌る指輪の上に、もうひとつの指輪を嵌められる。指輪と指輪が触れると重なり、2つは1つに成る。宝石の色が青い色から赤に変わり、手を動かすと、ゆっくりとまた青へと戻る。とても綺麗だ。私の瞳の色とテスラの瞳の色だ。

「それでは誓いのキスを」青い髪の女性が言う。ニャコブの顔が真っ赤に染まり、目を瞑る。

テスラの腕に身体を引き寄せられ、唇に柔らかな感触が当たる。周りの声と拍手の音がきこえなくなり、2人だけの世界になった様な錯覚をする。多分、今わたしは世界で1番幸せなのだと感じる。テスラもそう思ってくれていると良いなと思い、ニャコブはうっすらと目を開けると、耳まで真っ赤に染まり、目を瞑るテスラの顔が見え、嬉しくなりまた目を閉じる。2人が離れると周りの皆が白い小さな花を一斉に投げる。白く小さなその花はコーヒーの花、咲いてから2日で散ってしまうその花は結婚式で選ばれるような花ではないが、きっと2人にはピッタリだろう。花言葉は「一緒に休みましょう」なのだから。


2人が外に出て、花束をニャコブは後ろ向きに投げる。花束はたくさんの人達の頭上を飛んでいき、ケイティーが掴むがカジも一緒に掴んでいる。2人は顔を見合わせ、ケイティーは怒り出す。

「だっ、誰がこんなエロゴリラと!?結婚なんかするか!!」カジはガハハと豪快に笑う。

「別に2人で取ったからって、その2人が結婚しなくてもいいんだぜ?それとも本当に結婚すっか?」カジが「何てな!」と付け加えるとケイティーが真っ赤な顔でカジを殴り飛ばす。その後はどんちゃん騒ぎのパーティーが始まる。


「結婚おめでとう!」や「いやー皇帝陛下も今日、婚姻日だからめでたいねー」と村の人達や常連さんに言われる。ニャコブは色んな人達に囲まれ、笑顔で話している。テスラはいつも通り、カウンター席でコーヒーを入れる。

「アールグレイティーをいただける?」カウンター席に1人の女性が腰を下ろす。見かけない顔だがテスラは「かしこまりました」とガラスの容器にお湯を高い位置から注ぎ入れる。

「主役の貴方が行かないでお仕事ですか?」女性は静かに聞いてくる。

「ええ、私はここに居るのが性に合って居ますから…」テスラがガラスの容器からカップに紅茶を注ぎ、女性の前へと出す。女性がカップを口へと運び「美味しい」とカップをソーサーに戻す。彼女が目を瞑り、次に目を開くと金色の瞳がテスラを見る。

「まさかニャコブちゃんとお前が結婚するとはな?」

「おや、エジン国王陛下ではありませんか?またニャコブさんを誘拐にでも来たのですか?」テスラの鋭い青い瞳がエジンを睨む。

「まさか。人の嫁さんを誘拐するような事はしないさ…単にお前とニャコブちゃんのお祝いに来ただけだよ。悪い事を考えていたら、今頃ニャリーナに感ずかれているさ」エジンがカップを傾ける。

「まさか、あの時連れて行ったカフェで君が働いて居るとは思いもしなかったよ…店主は元気かい?」エジンが紅茶を眺めながら聞いてくる。

「彼は亡くなりました。だいぶお年を召されていたので…その後に私が買い取ってここを使わせて頂いております」

「そうか…彼も月へと帰ったか…羨ましい限りだな…」テスラが眉間に皺を寄せ、何かを思案した後に重たい口を開く。

「貴女はどうして、あの時ここへ私を連れて来てくれたのですか?誘拐するなら、すぐの方が確実でしょう」エジンが薄く笑う。

「お前の世話係をやっていて思ったんだよ…厨房に忍び込んで入れたコーヒーをお前が前皇帝に飲ませ、褒められたあの時の笑顔…お前は皇帝になるべきでは無いと…」エジンがカップを起き続ける。

「私の国へ君を連れて帰り、君には君の好きな事をやってもらいたかった。その前にこの国で私のお気に入りのカフェのアールグレイティーを飲んで貰いたかったが、君はコーヒーしか飲まないんだもの」エジンがやれやれと首を振る。

「それで私を誘拐しようとしたのですか?そんな事の為に?」テスラが気が抜け肩を落とす。

「君にとっては大事な事だろう。だが、結果的には良かったみたいだ。君は夢を叶え、皇帝として民を守り、ニャコブちゃんと出会えた」エジンが紅茶を飲み干す。

「私は貴女を少し誤解していたみたいです…」

「私も同じだ。君が今までの皇帝のように、水面下で戦争の準備をしていたと思っていた」テスラが「そんな事は…」と言いかけるが、エジンが手で制す。

「すまなかった。これからは帝国と手を取り、共に繁栄できるよう心掛けよう」

「ええ、そうですね」テスラが微笑む。

「では、コーヒーを頂こう。もう何百年もコーヒーは飲んでないからね」テスラが笑い「かしこまりました」とコーヒーを入れる。入れたてのコーヒーをエジンの前に出す。エジンがコーヒーに口を付けると「やっぱり、コーヒーは不味い…」と舌を出す。

「おう!テスラ!お前もこっち来いよ!」蜂蜜酒で酔っ払ったサチーが大きな身体でよたよたと歩いてくる。ニャコブ達もこちらに手招きをしている。

「わかりました。それでは…」エジンを見ると既に居なくなり、カップの中のコーヒーは空になっている。テスラはニコリと笑いニャコブ達の元へ向かう。幸せな未来へと。

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