アスタリスクの大魔術師~俺は、電脳異世界で神になる!~

0. 宛先のないメール

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         退職願

                   私議


   この度、一身上の都合により、誠に勝手ながら、

  二〇××年×月×日をもって退職致したく、

  ここにお願い申し上げます。


  二〇××年△月△日


            第二開発部  神谷 充


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 俺は、パソコンの画面に表示されたメールの文面を何度も目で追っては、ため息を吐いていた。

 新入社員として今の会社へ入社してから、早十数年。

 残業、徹夜、残業、徹夜……の繰り返しの毎日。

 社畜としてボロ雑巾のごとくこき使われ、幾度も転職を考えたが、あと一歩のところで勇気が出ず、未送信フォルダに入ったままとなっているメールをただ眺めることしか出来ない日々を送っている(現在進行形)。


 システムエンジニアという職業が大変だということは、就活時代に人から聞いて知ってはいたが、他にやりたい事もなかった俺に選べる道は、ここしかなかった。

 幸い、理系の大学を出ていた俺には、プログラミングの才があったようで、開発自体は楽しくやってはいる。

 ただ、法令を無視した残業超過や休日出勤の嵐に、そろそろ体力がついていかない。

 頑張った分だけ給与に反映されればまだ良いのだが、基本給は、毎年スズメの涙ほどの額しか上がらず、キャリアとしての見通しは、ほぼゼロ。

 同期は、次々と退職していき、今では、新しい転職先でワークライフバランスを楽しんでいると聞く。


 俺もさっさと転職すれば良いものの、再び就職できるだろうかという不安と、新しい職場でうまくやっていけるだろうかという尻込みする気持ちから、なかなか一歩が踏み出せずにいる。新卒時代に就職氷河期を経験した身としては、また転職活動をするのも億劫で、結局、今の職場にしがみつくしかない。


 だが、転職をするにしても、そろそろ年齢的に限界が近い。

 決めるならもう今年しかないのだが、臆病な俺は、仕事の合間に、こうして出す宛てのないメールを眺めては、送信ボタンを押せずにいる。


 その時ふと、俺の中に悪戯心が沸き上がり、出来上がった文面の一部を書き換えてみた。


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                   私議


   この度、一身上の都合により、勝手ながら、

  二〇××年×月×日をもって致したく、

  ここにお願い申し上げます。


  二〇××年△月△日


            第二システム開発部  神谷 充


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 …………我ながらいい歳こいて、厨二病にも程がある。

 削除しようとしてボタンを押した後で、俺は、誤って送信ボタンを押してしまったことに気が付いた。


「あっ……!」


 しまった、と思ったが、時既に遅し。

 画面上には、【送信しました。】の文字が書かれたポップアップが表示されている。


「嘘だろ……マジかよっ」


 俺は、送信取消を行おうと送信済メールの一覧を開いた。

 相手がまだメールを開いていなければ、削除することが出来る筈だ。


「……あれ?

 でも、俺……宛先って入力してたっけ?」


 送信したメールの宛先を確認したが、そこは空欄のままだった。

 この状態でメールが送れる筈がない。


「なんだ、メーラーのバグか?

 いつもなら、『宛先を確認してください』とかって、エラーメッセージが出る筈なんだけどなぁ」


 念のため、未送信フォルダに戻って確認してみたが、そこに残っているメールはない。

 宛先がなければ、エラーで返ってくる筈だと思い、何度か送受信ボタンをクリックしてみたが、エラーメッセージが返ってくる様子もない。


 メールサーバを管理している部署に問い合わせをしようかとも思ったが、メールの内容が内容なだけに、とても確認しづらい。

 まぁ、このまま放っておいても良いかな、と俺が諦めかけた時、

 ぽんっ、と軽快な音と共に、俺のメールボックスが一通のメールを受信した。

 件名には、先程俺が送ったメールの件名に「Re:」が付いている。

 まさか、と思い、慌ててメールを開くと、中には、たった数行だけ文字が書かれていた。


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   【願】を受理しました。


                    電脳異世界神


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「なんだ……これ? 誰かの悪戯か?」


 だとしたら、相手は、俺にも勝る、相当な厨二病者に違いない。

 ……いや、そもそも痛いメールを送ってしまった俺が言える立場ではないが。


「……あれ? でも、これ……送信元が空っぽだ。

 やっぱメーラーのバグか何かか?」


 うちの社内で使用されているメーラーソフトは、社内で開発された独自のシステムを使用しており、自社の人間である俺が言うのも何だが、かなりの不具合を出すことで社内でも有名だ。

 俺は関わってないが、システム屋がこんなバグだらけのインフラツールを使っているなんて、他社のSE企業に知られたら、恥以外の何物でもない。


「ったく、誰だよ、こんなバグだらけのシステム作ったのは……」


 文句を言いながら、届いた悪戯メールを削除しようとしたが、何故か削除ボタンが非活性化されていて削除することが出来ない。


「おいおい、とんだバグメーラーだな、こりゃ」


 一度メーラーソフトを再起動しようとした矢先、画面が突如光り出した。


「なんだっ?!」


 一瞬、画面がフリーズしたのかと思ったが、光はどんどん強くなる。

 そして、俺の意識は、白い光の中へと吸い込まれていった。



  *  *  *



 これは、バグだらけの電脳異世界へ転移したSEが、世界のバグと戦いながら、自分に都合のいい世界へコーディングし直していく、という異世界テンプレもの……に、なる予定です。。

 もちろん、チート能力は、コーディング。

 でも、この手の話は、よくある設定だろうなぁと思うので、他と差をつけられる何かがないとなぁ……。

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‪【創作用】夢のタネ🌱‬𓂃 𓈒𓏸 風雅ありす @N-caerulea

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