女王の夢~悪女と呼ばれたクレオパトラが現代に転生して人生を謳歌する~

第一話 死と目覚め

(もう終わりにしよう……)


 そう覚悟を決めたら、思いの他、ほっとした。

 これでもう、誰にも嘘をつかなくて済む。

 今まで、どれほどの嘘を積み重ねてきたのか、数えることすら億劫で、いつしか全てを諦めていた。


(今度は、嘘をつかなくても済む世界に生まれ変わりたい……)


 私は、脇に置かれた籠に目をやった。

 そっと両手で支え、膝に抱えると、その軽さに驚いた。

 本体と同じく、パピルスで編まれた蓋が被さっているため、中身は見えない。

 それでも、ここには、確かな〝死〟が入っている。


 外からは、荒々しい兵士たちの怒声や、女たちの叫び声が絶えず聞こえてくる。

 部屋の外には、近衛兵たちが武器を手にして立ってくれているが、扉が開かれるのは、時間の問題だ。

 オクタウィアヌスは、冷酷で抜け目のない男だ。

 きっと私を捕まえたら、生け捕りにし、ローマへ連れ帰るだろう。そして、市民たちの前で晒し者にした挙句、処刑する。

 そんな屈辱には、耐えられない。


 私は、傍で臥している侍女を見た。

 華奢な肩を震わせて、懸命に声を出すまいと努力しているのが見てとれる。

 ここまでよく付いて来てくれた、と思う。

 まだ若い彼女には、他の幸せな道もあっただろうに、私を信じて、ここまで来てしまった。

 私には、彼女に何も返してやることが出来ないが、せめて来世では、幸せになって欲しい、と心から願う。


 一体私は、どこで道を間違えてしまったのだろう。

 思い返せば、何度も大きな分岐点を通ってきた。

 しかし、そのどれもが自ら選んだ、というよりは、目の見えない大きな存在によってようにも感じる。


(……今更考えても、仕方ない)


 私は、ゆっくりと大きく深呼吸をした。

 目を瞑り、心を落ち着かせる。

 例え、民衆から〝悪女〟と罵られようとも、私は、最後まで気高き〝女王〟でいたい。


 私は、目を開けると、パピルスで編まれた籠の蓋を開けた。


 薄暗い籠の中、確実な〝死〟が冷たい目で私を見つめていた。



  ♢  ♦  ♢



 ――――――――……光だ。

 白く、暖かい。優しい光。

 白濁した意識の中で、私は、私を探した。


 ……私?


 私って……誰?



 ピピピピ……ピピピピ……ピピピピ……


 耳障りな高音に引き寄せられたかの如く、私の意識は、一気に覚醒した。



 * * *



 これは、かの有名なクレオパトラ七世が現代に転生したら、どんな人生を歩むだろうか?という思いから、冒頭だけ書いてみました。

 個人的に、クレオパトラとオクタウィアヌス(アウグストゥス)は、敵同士であったものの互いに惹かれ合っていたのでは……という密かな願望(笑)。

 そんなわけで、現代に転生したクレオパトラとオクタウィアヌスの大人向け恋愛小説になる予定です。

 これは、そのうち書きたいなぁ。

 需要があるかは、知りませんww

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