第3章 『ぼっち』でも『ひとり』でもない
僕とオバケン君と
第20話 根っこに埋もれたお社
オバケン君と佐伯先輩のお宝捜索が始まって早三週間。僕達は、丘の上の大きなお屋敷の、それはそれは広大なお庭を隅から隅まで大捜索させてもらっている。最初は手分けして探してたんだけど、ただやみくもにあっちこっちを探していても、数日前と同じところを見ていたりして効率が悪いのでは、と執事の長岡さんが指摘してくれたのだ。それで、用意してくれた庭の地図を見ながらいくつかの区域に分け、探し終えたところに×印をつけていくことになった。
長岡さんとも親しくなり、雑談なんかもするようになって、話の流れで、体調を崩しているのが僕らと同年代のお嬢様だということも知った。あの時二階にいた子だ。この年代の女の子が好きなものは何ですか、なんて相談をされたりもした。オバケン君は「やっぱのりモンじゃね?」と即答してたけど、違うんじゃないかな。
毎日通わせてもらっているとはいえ、時間はたったの二十分。こっそりべーやんとザエモンも手伝ってくれてるけど、全然見つからないんだ。ちなみに二人はいまは疲れたとか言って昼寝してる。幽霊が疲れるわけないじゃんね。でも本当に佐伯先輩はここに隠したのかな? ていうか僕、佐伯先輩のこと全然知らないんだけど?
そんな時のことだった。
「なぁぼっち! なんか変なの見つけた!」
興奮気味なオバケン君が、少し離れた位置から、僕に向かって声を張り上げたのだ。
「変なの?」
「何かさ、小さい家みたいなのあるんだ。ほら」
しゃがみ込んだまま指差したのは、大きな木の根っこのところにある小さなお社だ。地面から飛び出した太い根っこが屋根に絡みついている。お社の近くにあった木が成長してそれを巻き込んだのか、それとも、地面と根っこの隙間にお社を建てたのかはわからないが、とにかく、根っこの中に埋もれているような、あるいは囚われているような、そんな印象を受ける小さなお社だった。
「ほら、ちょーっと開いてんだよ」
と言いつつ、うっすら開いている扉を指でトントンと突く。
「確かにこんなものがあったら中に入れるかもだけどさぁ」
こういうのはね、触っちゃいけないって決まってるもんなんだ。
大抵の場合、こういうものの中には、何かしらが封印されていたりするのだ。僕は単に幽霊が見えるってだけだから、詳しいことはわからないけど、アニメだと、山の中にあるお社を人間がうっかり壊しちゃったりとかして、中から妖怪が出てきたりする。だからもしかしたらこれだってそういうやつなのかも。
「中に何か入ってたりしねぇかな」
オバケン君は地面に這いつくばうような体勢になりながら、そのうっすら開いているお社の中を覗いている。場所が場所だから仕方ないけど、土ぼこりにまみれているそのお社が何だか可哀想に思えて、屋根を軍手でサッと拭いてやる。こんなの気休めでしかないってわかってるけどさ
「何かさ、何か入ってるようにも、何も入ってないようにも見えるんだよな」
「何それ、どういうこと?」
「真っ暗なんだよ、中。懐中電灯でもないと見えねぇ」
「確かにちょうど日陰だしね」
「長岡さんに懐中電灯借りてこようかな」
そんな話をしていると、「見つかりましたか?」と長岡さんがやって来た。額に汗をたっぷりとかいている。
「あぁ、長岡さん良いところに!」
「あの、長岡さん、これ、何かわかります?」
至近距離なのにぶんぶんと大きく手を振るオバケン君に、律儀にも手を振り返してから、僕の言葉を受けてその場に腰を落とす。
「お社ですね」
はて、こんなものありましたかねぇ、と言って、長岡さんが、ふむ、と汚れた軍手で顎を擦る。
「知らなかったんですか?」
「えぇ。いまのいままで気が付きませんでした。お恥ずかしい。おかしいですねぇ、庭はくまなく手入れしていると思ったのですが」
でもまぁ、木の根っこにすっぽりと埋もれてしまうようなお社だ。色だって塗られているわけでもないから、木と同化してしまっていて気付きにくいのは確かだ。ましてや、大人は僕らと違って目線も高い。それに僕達だって、今回は『お宝探し』ということで、地べたを這いずり回っていたから見つけられたようなものだし。
「それで、この中にその『お宝』が?」
「それがわからないんです。中が暗くて。それで、懐中電灯をお借り出来ないかと。あっ、それから、もし良ければ濡れた布巾とかあると。あの、ちょっときれいにしてあげたくて」
「成る程。少々お待ちください」
そう言うや、長岡さんはくるりとUターンしてお屋敷の方へと向かって行った。かなりのおじいちゃんに見えるんだけど、とってもフットワークが軽い人なのだ。
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