第19話 三人の幽霊達②

👻👻👻


「じゃあやっぱりアレぁ、レイだったんですねェ」

「しかも、生きてる女子おなごだった、と」

「幽体離脱かァ、話には聞いたことありやすがねェ」

「なんとも面妖な」


 ユウが第一回目のお宝捜索を終えて自宅に帰ったところで、幽霊達はいつもの空き地に集まった。三人で車座になり、ひそひそと言葉を交わす。


 お松がレイとのやり取りを話すと、べーやんとザエモンは腕を組み、「死んじゃァいないけど、ベッドから出られない、ですかい」、「よほどの大病なのでござろうか」と眉を下げる。


 と。


「いや」


 お松は首を横に振った。


「レイは身体が弱いとしか言ってなかった。単に虚弱ってだけじゃないのかねぇ」

「ふむ。虚弱、ですかい」

「もともと五臓が弱い質なのかもしれぬでござるな。それで療養しているうちに筋力が衰えてしまったというのもあり得る。そのせいで出歩けなくなり、それでさらに足が萎え――、って悪循環に陥ってるのかもしれぬ」

「ありうる話だ。無理やりにでもお天道てんとさんの下を歩かせた方が良いってのにさぁ」


 過保護な家人がいるんだよぅ、とため息混じりに言う。


「とにかく、八月いっぱいが勝負なんだ。どうにか少しでも良くなりゃあ、きっとレイはこの街に残れる」

「って言っても、あっしらに何が出来やす? お医者のカルテを改竄かいざんですかい?」

「それとも、拙者がその医者の枕元に立って夜な夜な説得致そうか?」


 ちゃき、と腰の刀に手をかける。およそ『説得』をする人間幽霊の所作ではない。


「お馬鹿。違うよ。元気づけるのさ。病は気から、って言うだろ?」

「元気づける? あっしらが?」

「そうさ。あたしとちょいと話しただけでも表情が変わったんだよ。痩せっぽちなのはさすがにどうにもならなかったけど」

「ふむ、お松殿との短いやりとりだけでも変化があるのであれば、期待出来るかもしれぬでござるな」

「だろう? なら決まりだ。レイにはもう話をつけてあるんだ。次は三人で来る、って」


 ヒヒッ、と悪い顔で笑うと、べーやんとザエモンは顔を見合わせて、はぁぁ、と深いため息をつく。


「さっすが松代のアネゴ、あっしらには事後報告なんですねェ」

「いつの時代も女子おなごは強いでござるなぁ」


 やれやれ、などと言いつつも二人の表情は晴れやかである。何にせよ、もう会えないものかと思っていた友人の『レイ』に会えるのだ。それに、うまく行けばまた四人で楽しく遊ぶことも出来るだろう。しかも今度は『幽霊のレイ』ではなく、『人間のレイ』とである。ユウだってきっと本当は人間の友達が欲しいはずだ、と今日『オバケン』とのやり取りを見ていた二人は強くそう思っている。


「とりあえず、拙者達はユウ殿の宝探しの手伝いもせねばならぬでござるから、レイ殿に会うのはその後でよろしいでござるか?」


 ザエモンがそう言うと、べーやんも「そうだそうだ! あっしらにはそれもあったんでさァ!」と膝を打つ。


「あぁ、そういやそっちもあるんだったねぇ。大丈夫、それが終わってからで良いんじゃないかね。ていうか、見つかりそうなのかい?」


 屋敷に向かう道中で『佐伯先輩』なる人物のお宝が庭に隠されている、という話は聞いているものの、それが何なのか、どこに隠されているのかまでは、当然わからない。


「いやァ、何せ広い庭ですからねェ」

「だが、拙者達がその気になれば、造作もないでござる」

「おや、そうなのかい?」

「無論。とはいえ、せっかくユウ殿が人間の友達をいるところでござるからな。すぐに見つけてしまうのはもったいないでござるよ」

「作りかけてるところ? あの何か図体のデカいやつとかい? ユウは迷惑がってるように見えたけどねぇ」

「いやいや、あれァ、良い友達になれやすぜ」

「そうかい?」

「左様。あのオバケンとかいう少年、案外悪いやつではなさそうでござるからな。惜しむらくは、拙者達の姿が見えぬことでござろうか」


 だなァ、あいつとも遊びてェなァ、とべーやんがしみじみと言う。


「そいつぁもう体質的なものだから仕方がないけどねぇ。まぁ、でもそういうことなら、ちったぁ時間をかけても良いんじゃないかい?」

「へへっ、アネゴならそう言ってくれると思ってやしたぜ。ボンに人間の友達が出来るってェのは喜ばしいことですからねェ。それに加えてレイも元気になりゃァ皆ハッピーハッピーでさァ!」

「うむ、万事解決かぁ~いけつっ、一件落着らぁ~くちゃくでござるぅ!」


 いえーい、とハイタッチを決めるチンピラと落ち武者の姿を見て、お松は「まったく、男共は騒々しいったらないよ」と笑った。


 それで、その翌日から三人は時間を作ってはレイの部屋を尋ねるようになった。もちろん室内には執事の長岡やメイドの酒井がいたが、常にべったりと見張っているわけではない。さすがにそれはレイ――礼夏も息が詰まるだろうと、掃除だのお茶を淹れるだのと理由をつけては席を外すようになったのだ。確かに、数十分なら目を離しても大丈夫と思えるほど、彼女の体調は日に日に良くなっていったのである。


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