第2章 『オバケ』と『ユウレイ』
僕とオバケン君
第12話 僕の苦手なクラスメイト
レイがぱたりと来なくなった。
「
「うん。どうしちゃったんだろ」
「レイにも何か用事があるんじゃないかい?」
「かもしれないけど」
べーやんとお松さんが僕の両脇に座って、ちょっとオロオロしている。きっとレイが来なくて僕が気落ちしていると思っているんだろう。そんなことないよ、皆がいるし。と思いたいところなんだけど、それでもやっぱり寂しい。
幽霊にだって用事くらいある。
頭ではそうわかってる。だってべーやんもお松さんもザエモンも、僕が学校にいる間はあちこちふらふらしているのだ。僕以外の幽霊仲間もいたりするらしい。だから、レイにもなんかそういう……僕以外の友達がいたりだとか、どこかに遊びに行ってるとかかもしれない。それはある。きっとそう。
「もしかして、レイ殿は成仏なさったのでは?」
そこへ、僕の真正面で仁王立ちしていたザエモンが言った。
その言葉に、べーやんとお松さんが「あっ」と声をそろえる。
「それがありやしたね! っかァーっ、あっしとしたことが!」
「やだよぅ、あたしったら、すっかり忘れてたわぁ」
「成仏……。確かに」
僕は忘れていたのだ。
レイだっていつかは成仏するんだ、って。
この世に未練がなくなったら、幽霊っていうのは自然と成仏出来るものなんだって。そう教えてくれたのはこの三人なのに、べーやんとお松さんはそれをすっかり忘れていたみたい。まだまだ未練があるってことなんだろう。そうだよね、だって楽しいことあるもんね。ザエモンだってこないだ、「『暴れん坊大老』と『諸国漫遊ご老公』の最終回を見届けるまでは成仏出来ませぬなぁ!」なんて言ってた。たぶんあれはさ、最終回とかないんじゃないかな。僕のお父さんが子どもの頃からやってるみたいだし。
もしレイが成仏したんだとしたら、それはたぶん喜ぶべきことだ。もしかしたらレイは僕とたくさん遊んで、それで満足して成仏したのかもしれない。そう考えたら、きっと僕は良いことをしたんだと思う。ただちょっと僕自身が寂しいだけで。
「坊、あっしらがついてますぜ」
「うん」
「あたしらは、まだまだユウと一緒にいるよ?」
「ありがと」
「そうでござる。遊び相手にも、用心棒にもなるでござるよ!」
「あはは、心強いなぁ」
皆の励ましが嬉しい。
でも君達は本当に成仏しなくて良いの? そう思わないでもないけど。
それからも、やっぱりレイは空き地に来なかった。
やっぱりレイは成仏したんだ。
僕もそう気持ちに折り合いをつけて、また四人で色んな遊びをしていた。レイが来なくなって、しばらく経った時のことだ。
夏休みに入って、宿題もたくさん出たけど、遊ぶ時間が格段に増え、僕はいつものように空き地で遊んでた。もちろん四人でね。だけど、道行く人にはもちろん三人の姿は見えない。僕が一人でぎゃあぎゃあと騒ぎながら遊んでいるように見えてるはずだ。
そこへ。
「おーい、ぼっちー!」
学校での呼び名にぎくりとして顔を上げる。
そこにいたのは、クラスメイトの
「大葉君」
「お前、まーたこんなところで一人で遊んでんのかよ」
「良いじゃんべつに」
「なぁ、まだ霊が見えるとか、そんな設定なわけ?」
「設定じゃないよ。見えるもん」
いまも君の周りを現役の幽霊達が怖ーい顔でにらみながら飛んでいるよ。
「なぁ、ぼっちも行かねぇ?」
「行く? どこに?」
大葉君は別にいじめっ子というわけではない。
ただ身体と声が大きくて、思ったことをずばずば言っちゃうだけなのだ。それは僕もわかってる。正直苦手なタイプだけど、別に悪いやつではない。僕の靴を隠したり、机の上に花を飾ったり、陰でヒソヒソしてるのは大葉君じゃない。彼はただこうして正々堂々と僕をからかってくるだけだ。
馴れ馴れしくガッと肩を組まれ顔を近付けられると、飲んだばかりなのだろう、コーラの匂いがした。そういうのも苦手だ。お母さんから、コーラは中学生からって言われてるんだ、僕。
「肝試しだよ、肝試し」
「えぇ」
嫌だよ。
君達は見えないから、なんか怖くて不思議なことが起こってるように思えるかもだけど、僕にしてみれば、知り合いの家に「何か約束もなしにいきなり来ちゃってごめんね」って気まずい気持ちで上がり込むようなものだからね?
それに、幽霊達からしてもかなり迷惑だよ? そりゃあ追い返そうと思ってあの手この手を使ってくるよ。それがつまり心霊現象ってやつなんだから。
「やめなよ。向こうも迷惑だからさ」
「何だよ迷惑って。大丈夫、そこ、人が住んでるところだから」
「なおさら駄目でしょ! 全然大丈夫じゃないよ!」
普通そういうのって墓地とかじゃない?
何? 人が住んでるところって何?
「ほら、丘の上のさ、でっかいお屋敷あんじゃん」
「でっかいお屋敷……。あー、えっと、去年まで空き家だったとこだよね?」
丘の上のお屋敷は、今年の初めに買い手が見つかって空き家じゃなくなった。いかにもって感じの洋館で、壁には
だけど、春ごろだったかな。
どうやら誰かが引っ越してきたらしい、という噂が流れてきた。たまたま通りがかった時にちらっと見たけど、あの『いかにも』な雰囲気は残っていつつも、それでも庭はきれいに手入れされていたし、ちゃんと『人が住む家』になっていて驚いたものだ。
そのお屋敷は空き家だった頃、子ども達の恰好の『肝試し場所』だった。もちろん人の土地だから、絶対に駄目なんだけど。それでも、柵を越えて忍び込む子ども達は多かった。
僕?
僕は絶対にしないよ。
まずそもそも、僕の運動神経では柵を越えられないんだ。それに、誘われるわけもないし。誘われても行かないけど。
「去年の夏、まだ誰も住んでなかった時にさ、
佐伯先輩というのは、僕らより一つ上の中学生の先輩だ。ちょっとやんちゃで、女子からはカッコイイってものすごく人気があったし、ケンカも強かったから、男子の中にも憧れてるやつはいた。大葉君もその一人だ。
「すごいお宝? 何を隠したの?」
「それはわかんねぇけど、とにかくすっげぇやつらしいんだ。きっと『
「そうかなぁ」
僕としては、佐伯先輩はのりモンのカードゲームなんてやらないんじゃないか、って思うんだけど、大葉君はすっかりそう信じているようだった。確かに僕らにしてみれば、のりモンのレアカードは『すげぇお宝』だ。
「なぁ頼むよぼっち」
「はぁ?」
顔の前でぱちんと手を合わせ、大葉君が僕に頭を下げる。
大葉君が僕に『頼む』ってどういうこと?
「お前、霊が見えるって設定ってことは、少なくとも、そういうの平気ってことだろ? 皆怖がって来てくれねぇんだよ。人手が足りねぇんだよな」
「だから、僕は設定なんかじゃ」
「ついて来てくれよ。俺、絶対に佐伯先輩のお宝ゲットしたいんだよ!」
「嫌だよ」
「ついて来てくれたら、お前のこといじめるやつらをとっちめてやるから」
「えっ、僕っていじめられてたの?! からかわれてるだけじゃなくて?!」
「えっ? 違うのか? だってお前いつもぼっちじゃん」
「僕は別にいじめられてるからぼっちってわけじゃないよ。一人が好きなだけ。まぁ、友達はいないけど」
そう返すと、べーやん達が「あっしらは?」、「ユウは一人が良いのかい?」、「拙者達は友達でござろう?!」と僕に突進して来た。
ち、違うんだ皆。
これはあくまでも対人間との話だから!
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