第10話 待ちわびていた日
その次の日。
前の晩はなかなか寝付けなかった。
だって、年の近い友達が出来るかもしれないんだもん。
いつもよりちょっと寝坊したら長岡さんがびっくりしてた。酒井さんも、「体調が悪いのですか?」とおろおろしていたけど、全然そんなことはない。むしろ何だかとっても身体が軽いの。きっと、いままでより毎日が楽しいからだと思う。前までは、どうせ明日が来たって、って気持ちだったけど、いまは違う。明日が来るのが待ち遠しくて仕方ない。
だからかな。
そんなに動いたりしてないのに、お腹もすごく空いてて、いつもよりご飯だってたくさん食べられちゃう。ご飯のおかわりをよそいにいく酒井さんもすごく嬉しそう。
「お嬢様、あたしの分も食べちゃうんじゃないですか?」
なんて言って笑って、明日から、この倍のご飯を用意しましょうね、って。
長岡さんも、「この分ならきっとすぐに元気になりますね」って嬉しそうだった。わたしもそんな気がする。
それで、午後のおやつを食べた後、用意しておいた赤いTシャツとデニムのハーフパンツ、それから赤い帽子をかぶって、ローファーを履き、ベッドに横になった。目をつぶって、大きく息を吸う。一、二、三……とゆっくり数を数えると、だんだん自分の魂が身体から剥がれていくのがわかる。
頭、肩、お腹と、わたしの魂が順番に身体から剥がれていき、最後につまさきがつるんと離れると、そのまま窓から飛び出した。
急げ急げ。
ルートはもうばっちり覚えてる。
何を話そうか。
えっと、まずはやっぱりあいさつからだよね。それからちゃんと名前を名乗らなくっちゃ。それから、えっと、そうだ。ちゃんと男の子の言葉を話さなくちゃだよね。
そんなことを考えながら、あの空き地を思い浮かべる。
と、不思議なことが起きた。
すぐ目の前にあの空き地が現れたのだ。
もしかしてこれって、瞬間移動?
すごい! 幽霊ってそんなことも出来ちゃうんだ!
きっと、きちんと覚えた場所なら一気に移動出来ちゃうってことなんだ。確かに幽霊って神出鬼没だもんね。
すると、ちょうどあの男の子がランドセルを置いてどこかへ走っていくのが見えた。そうだ、確かあの子はいつも、どこかから何かを運んで来るのだ。ちょうど建物の陰になってしまっているから、どこから何を持って来ているのかわからなかったのである。
たどり着いた先は、何かのお店屋さん。
シャッターが下りているから、営業はしていなそう。というか、だいぶ寂れているし、つぶれてからもう何年も経ってそうな感じ。看板も取り外されていて、何のお店かわからない。そのシャッターがほんの少しだけ開いている。
さっきの男の子が中にいるんだ。そう考えるとドキドキする。ちょっと待っていると、よいしょ、なんて声が聞こえて来た。それで、まず最初に頭だけがシャッターから出て来た。そのタイミングで「こんにちは」と声をかけてみる。すると彼も顔を上げて「こんにちは」と返してくれる。
とりあえず、存在に気付いてもらうことには成功したけれど、ここからどうしよう。よく考えたらわたし、友達なんて作ったことない。えっとえっと、まずはあいさつをしたし、次は何を言えば良いんだっけ。
そうこうしているうちに彼は店から出て、シャッターを閉めた。それで、わたしの方を見て、「僕に何か用だったりする?」と聞いて来た。ある! 用はある! わたし、あなたと友達になりたくて来たの! そう言いたいけど、いきなりそんなことを言っても良いのかな?
そう思ってまごついていると、彼はわたしをじっと見た後で、「幽霊?」と尋ねて来た。お化けだよ、と言いたかったけど、そういえば幽霊とお化けって何が違うんだろう。わたしは自分が『お化け』なのか『幽霊』なのか、よくわからない。ちょっと自信がなくて「そうかも」と返す。でもきっと、呼び方が違うだけだと思う。
彼はわたしが『幽霊』と言うと、ぱぁっと顔を明るくさせた。
それで、「いまから皆と空き地で遊ぶんだけど、もし良かったら、君もどう?」と誘ってくれたのだ。ぴんとまっすぐ伸びた指の先は、いつもわたしが目指していた空き地。『皆』というのはきっと、いつもの三人のお化け――幽霊だろう。そうか、わたしも『幽霊』だから、仲間に入れてくれようとしてるんだ。やっぱり幽霊なら友達になれるんだ!
「良いの?」
「良いよ、もちろん」
「ありがとう」
良かった。一緒に遊べる!
えっと、名前名前。ちゃんと名前を言わないと。……でもわたしの『
「……えっと、ボク、『レイ』っていうんだ」
「レイ君か。僕は
「レイで良いよ」
「じゃあ、僕のこともユウって呼んでよ」
「わかった」
そう言うと、ユウはわたしに向かって手を伸ばしてきた。これは、握手かな? 友達の印ってことで握手をしたりするのかな。でも、幽霊って触ったり出来るのかな? そういえば昨日、ユウは背中を叩かれて痛いって言ってた。ということは、触ったり出来るのだろう。そう思って、恐る恐る、ちょん、と触れてみる。
すると、ユウの手はびっくりするくらい温かかった。わたしはいつも体温が低くて、冬なんかは手足がカチコチに冷えちゃうんだけど、ユウの手はお風呂に入った後みたいにほっかほか。そのほっかほかの手にぎゅっと握られると、ユウの温かさが伝わってくるようで、何だかちょっと恥ずかしい。
それで、わたし達は、手を繋いだまま空地へと移動した。
そこでユウの三人の友達を紹介してもらい、皆で遊んだ。
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