第3話 僕の新しい友達
その、『青ひげ危機一髪』を持って、倉庫のシャッターから顔をひょこりと出した時だった。
シャッターは、僕が通れるくらいしか開けない。勢いよく持ち上げれば上まで全部開けられるけど、そうしちゃうと閉める時が大変だから。だから、僕が屈んで出入り出来るくらいしか開けないことにしてる。そうすれば閉めるのも簡単だ。そういうわけで、いつものように僕の腰の高さくらいまで開けたシャッターを、よっこいしょ、と潜ったら、目の前にぴかぴかの革靴――ローファーって言うんだっけ。あの、入学式とか発表会で履くようなやつ――が見えた。小さな王冠のエンブレムが付いててカッコいい。
「こんにちは」
そんな声が聞こえて、顔を上げる。目の前にいるのは、僕と同じくらいの男の子だ。見ない顔だけど、近所に住んでるのかな。
「こんにちは」
知らない子でも、ちゃんとあいさつはする。僕んち、そういうの厳しいんだ。だけど、あいさつはしたものの、その後が続かない。たまたまここを通りがかった時に僕が出て来たから声をかけただけなのかと思ったけど、その子は僕を見つめたまま動かないのである。とりあえず店から出て、シャッターを閉めた。鍵も忘れずにね。それで。
「えっと、僕に何か用だったりする?」
勇気を出して聞いてみる。そして、改めて真正面からその子を見て、気が付いた。
よく見たら、身体が透けてる。
幽霊だ、この子。
そう思った。
「幽霊?」
何も答えないその子に、そう尋ねる。すると、少し考えるような素振りをしてから「そうかも」と返してきた。もしかしたら、まだ自分が幽霊だっていう実感がないのかもしれない。事故なんかで死んだ人によくあるやつだ。突然のことすぎて、自分が幽霊になったって信じられないんだって。だからもしかしたら、そうなのかも。だって、身体が透けてるんだから、その子は間違いなく幽霊なんだ。幽霊なら、友達になれる。
「いまから皆と空き地で遊ぶんだけど、もし良かったら、君もどう?」
そう言って、空き地のある方を指差す。
その子がこれからもここに留まるかはわからない。もしかしたら案外するっと成仏しちゃうかもしれない。それはわからないけど、もし少しゆっくりしていけるなら、ちょっと遊んでいかない? そんな軽い気持ちで誘ってみた。すると。
「良いの?」
おずおずとその子は聞いてきた。
「良いよ、もちろん」
「ありがとう。……えっと、ボク、『レイ』っていうんだ」
「レイ君か。僕はユウ」
「レイで良いよ」
「じゃあ、僕のこともユウって呼んでよ」
「わかった」
じゃ、行こう。
そう言って、僕はレイに手を伸ばす。
彼が僕の手に触れると、少しヒヤッとする。それをキュッと握って歩き出した。
あっ、幽霊は身体をすり抜けるから手なんか繋げないと思った? ふふふ、甘いな。これだから幽霊のことを何も知らない素人は。もちろんすり抜けるよ。すり抜けるけど、彼らはさ、物を動かしたり出来るんだ。聞いたことない? ポルターガイストとかさ。あと、しまったはずの人形が押し入れから出て来るとか。
それにほら、人に乗り移って動かしたりするでしょ? やろうと思えば、幽霊ってそういうことも出来ちゃうんだ。生きてる人間の方から触るとすり抜けるけど、彼らの方から触れてくれたら大丈夫。僕が彼らの『触れてもオッケーなもの』って認められるってこと。すごい発見でしょ? ただ、一度離れちゃうとリセットされるみたいだから、毎回
でもレイは幽霊になりたてだから、そういうのも知らないみたい。僕が手を握ったらものすごくびっくりしてた。幽霊なのに、顔を真っ赤にしちゃってさ。
そういえばレイはどこからどう見ても普通の男の子だ。怪我をしてるとか、顔色が悪いとか、そんなこともない。格好だって、『
ああそうそう、だからおかしいなって思った。事故で死んだんじゃないのかなって。どこからどう見ても、普通の男の子だ。ただ、身体が透けてるってだけの。でもまぁ、良いか。レイがどんな理由で幽霊になっちゃったのかはわからないけど、そんなことは問題じゃない。大事なのは、いまだ。僕はいま、新しい友達と出会った。そして、この子と皆で楽しく遊ぶのだ。
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