第2話 僕の宝物のお店

 友達がいなくて『ぼっち』ってだけで、別にいじめられてるわけでもない、と思う。


 前は、上靴が隠されたり、机の上に花が飾られてたりしてたけど、靴はいつもべーやんがどこからか見つけ出してくれたし、花はお松さんへのプレゼントにぴったり。そういや僕の体育着が破かれていたこともあったけど、ザエモンって、実はお裁縫がめっちゃ得意なんだよ。昔は男でも女でもつくろい物が出来ないといけなかったんだって。決して、お嫁さんがいなかったからではござらんぞ! ってムキになって直してくれたけどほんとかなぁ。


 そんな感じで気にしないでいたら、いつの間にか、それもなくなった。ただ、無視されるだけ。遠くからヒソヒソされるだけ。ちょっとからかわれるだけ。痛いことも何もない。だから平気だよ。それより僕には皆がいるからね。


 僕は学校はそこまで嫌いじゃないけど、やっぱり放課後の方が好きだな。だって皆と思いっきり遊べるから。ここだけの話だけど、実は僕んち、昔はおもちゃ屋さんだったんだ。僕が生まれる前にやめちゃったんだけどね。


 お父さんが高校生くらいの頃、僕の住んでる街に大きなおもちゃ屋さんが出来た。都会にもあるような、大きいやつ。といっても、都会のお店に比べたら小さいけどね。だけど、本社が大きいから、品揃えも豊富で、新しくて、きれいで、それで、お客さんをぜーんぶ持っていかれちゃったんだって。

 それで、おじいちゃんは、おもちゃ屋さんを継ぐ気満々だったお父さんを無理やり大学に行かせたんだって。で、お父さんが会社員になって、結婚の話が出始めた時にお店を閉めちゃった、ってわけ。そういうわけで、僕んちの倉庫には、おもちゃが山ほどある。倉庫っていうか、お店なんだけどね。シャッターの鍵は僕が持ってる。おじいちゃんが亡くなる時、この中のおもちゃは全部僕にくれるって言ってたんだ。このお店は丸ごと僕の宝物だよ。


 だから僕は毎日学校が終わると、ランドセルを背負ったまま、おじいちゃんの店に行く。それで、その中からおもちゃを選んで、いつもの空き地に行くんだ。そこで皆とそのゲームで遊ぶってわけ。ひとしきり遊んだら、休憩がてら宿題をする。ちゃんと宿題しないとお母さんに怒られちゃうんだ。前にそれでシャッターの鍵を取り上げられたことがあるから、これだけはちゃんとしなくっちゃいけない。


「どーれーにーしーよーおーかーなっ」


 かーみーさーまーのーいーうーとーおーりー、とずらりと並んだおもちゃ達を一つ一つ指差しながら選んでいく。しんと静まり返った店の中に、僕の声だけが響く。


 さて、今日のおもちゃは決まった。昨日はコマだったから、今日はちょっと凝ったやつだ。


「じゃじゃーん、『青ひげ危機一発』!」


 箱を高く掲げて叫ぶ。もちろん、それに反応してくれる人なんていないけど。

 これは、屋根の真ん中に青ひげのおじさんが埋め込まれたお城に、鍵をどんどんし込んでいく、というゲームだ。城壁に描かれたたくさんの扉はどれか一つが『当たり』になっていて、鍵がそれに触れると、屋根の中のおじさんが勢いよく飛び出すのである。屋根のおじさんを飛び出させた人が負け、というルールである。


「これ、WeウィーTubeチューブで見てからずっと気になってたんだよなぁ」


 このゲームが最初に発売されたのは昭和だけど、いまも新作が出ていたりする。でも、令和の時代のやつは何か違うんだよ。安全に配慮したとかいって、勢いもあんまりないし、青ひげおじさんの数も増えてたりしてさ。違うんだよなぁ。そういうことじゃないんだよ。数が多ければ良いってことじゃないんだ。もっと、ばびゅん! って飛んでくれなくちゃ。昭和のおもちゃって、そういう勢いとか熱意みたいなのがあるんだよ。 僕はそう思ってる。

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