『ぼっちのユウ』と『ひとりのレイ』
宇部 松清
第1章 『ユウ』と『レイ』
僕の話
第1話 僕の三人の友達
「ぃよいしょぉぉぉぉっ!」
ぐいっと手首のスナップを効かせて、紐を引く。と同時に、僕の握りこぶしくらいの大きさのコマを足元に向かって投げた。ぎゅるる、と土ぼこりを舞わせてその場で回転するコマは、右に左にと軽く揺れながらも倒れる気配はない。
「やった! 回った! やった、やった!」
その場でぴょんぴょん飛び跳ねて喜びの声を上げる僕の横を、買い物帰りのおばさん達がヒソヒソしながら通り過ぎていく。
「ほら、
「ねぇ、なんかねぇ」
もう慣れっこだ。その「ねぇ」の中に、どんな意味が込められているのかだって、もうちゃんとわかってる。
「また一人でいるわ」とか、
「幽霊が見えるんですってよ」とか、そういう感じのやつ。
あのおばさん達は、僕が『幽霊が見える』とかいう『おかしい子』だから、誰とも友達が出来なくて、それで『一人でいる』と思っているのだろう。それはまぁほとんど当たってる。
けれども、寂しいなんてことはない。だって。
「やりましたなァ、
「あたしゃ、ユウはやると思ってたんだよ」
「さすがでござる、ユウ殿! やはり拙者の教え方が良かったからでござろうな!」
「ありがとう!」
本当に幽霊が見えるんだ。
いつも僕と遊んでくれるメンバーは、カラフルなシャツを着て、ほっぺたに大きな傷のある『べーやん』と、時代劇に出てきそうな、きれいな着物を着た『お
あっ、大丈夫大丈夫。人に迷惑かけたりなんかしないよ。皆さ、怖いテレビの見過ぎなんだよね。そりゃあ悪いことをする霊もいるよ。誰かに恨みを持って死んだら、やっぱり悔しいし、仕返ししてやる! って思うかも。だけどさ、皆が皆そうってわけじゃない。
べーやんは、カッコつけてナイフを振り回していたら、それがうっかり胸に刺さっちゃって死んじゃって、お松さんはお正月のお餅が大好きで、家族の留守中にこっそり食べていたら、それを喉に詰まらせて死んじゃって、ザエモンは、矢の雨をかわしながら敵から逃げてる途中で、お寺の石段から足を滑らせて死んじゃったんだって。
ねぇ、こんなの誰を恨むのさ。
振り回したナイフ?
喉に詰まったお餅?
足を滑らせた石段?
だからこの三人は、恨むに恨めなくて、かといって成仏するのもなんだかなぁってことで、ここに留まってる。こういう幽霊って実はたくさんいるんだ。
それに、誰かを恨んで死んだ人達だって、幽霊になってあちこちうろうろしてるうちにそれをすっかり忘れちゃったりする。べーやんが言うには、「幽霊ってェのは思ってたより快適なんでさァ」だそうだ。お腹も空かないし、疲れないし、どこにだってタダで(これ大事)行けるって。
べーやんは、遊園地に行って朝から晩まで遊びまくったり、動物園に行って「今日はカンガルーとジャンプ対決してやりやしたぜ! いやァ、完敗ですわ!」と僕に報告してくる。
お松さんは呉服屋さん巡りをして、こっそり色んな着物を試したり、ご近所さんの噂話に聞き耳を立ててキャッキャしてる。
ザエモンは人の家に忍び込んで時代劇を観たり、映画館で色んな映画を観てはボロボロと泣くんだ。最近は『暴れん坊大老』と『諸国漫遊ご老公』がお気に入りみたい。
だから、僕の身の回りにいる幽霊達は、僕に嫌なことなんてしないよ。彼らにだって、彼らなりの目的や楽しみがあるんだ。自分の家族を見守ることだったり、べーやん達みたいに、好きなことをしたりとか。僕みたいに幽霊が見える子には気さくに声をかけるんだけど、無視されたり、怖がられたりするのが悲しいって言ってた。
でも、無理ないよ。だいたい、幽霊達は見た目が怖すぎるんだ。
さっきも言ったけど、べーやんは頬に大きな傷のあるチンピラだし、胸にナイフも刺さってる。お松さんはお餅を詰まらせちゃったせいで顔色が真っ青。真っ赤な口紅でごまかそうとしてるけど、真っ青な顔色まではごまかしきれてない。ザエモンなんて首が曲がってるし、頭に矢だってぶっ刺さってるからね? ちなみにべーやんの胸からも、ザエモンの頭からも、血が噴水みたいにピューピュー出てる。
それが、にっこり笑って「うらめしや」ってあいさつするんだもん。怖いよね。あっ、「うらめしや」って幽霊にとっては「こんにちは」みたいなノリのやつらしい。僕はそういうの全然平気だったから、仲良くなったんだ。
あっ、そうだ。自己紹介がまだだった。
僕の名前は『
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