第61話 ボスの力

 四方八方を通り囲む大猿達から岩が飛んでくる。それを俺はリボルバーで消し去りながら敵陣へと飛び込んでいく。

 これだけ統率が取れているのは真ん中に居るあの白いボス猿のせいだ。こういう時はたいてい統率者を降せば一斉に統率が取れなくなり、壊滅へと向かう。

 そのため、俺の一撃を受けて腕を失い群れの中心へと逃げていったボス猿を追いかけているのだ。


「まったくセコい戦い方をしますね」


 シロリンたちの前に現れた時もそうだ。大猿一体だけだと誤解させて自分の陣地へと誘い込み、倒せそうだと判断したら群れを引き連れて囲い込む。

 イグナイトの時はどうせ死ぬかもしれないってあのボス猿が判断したから姿を現さなかったとかなのだろう。別に階層を上がるだけならボスを倒す必要は無いから、イグナイト達もわざわざ探さないだろうし。

 よかった。俺の異能のせいじゃないよな。


「この程度ならばいずれ勝てますが」


 前に立ちはだかる大猿を一体一体主神の槍で貫きながらリボルバーで飛んでくる岩を捌く。

 着実に減らせているはずなんだが、どうも不穏な気配が拭えない。

 少なくとも連携が取れるほどに知能が備わっているはずのボス猿が逃げるチャンスはいくらでもあるのに、一切逃げるそぶりを見せないのがおかしい。

 これだけ善戦している俺に対して臆するのではなく、むしろ勝てる相手だと判断しているかのように落ち着き払っている。


「これでジ・エンドと行きましょうか」


 順調に大岩を捌いていき、ようやくボス猿の目の前まで来た俺はすべてのステータス数値をエネルギーに変換し、リボルバーへと注ぎ込む。

 本来ならリボルバーに込めるステータスが多ければ多いほど隙が生まれるのだが、それが生まれても問題がないくらいに大猿の数は減っていた。

 今のところ前方から飛んでくる岩は存在しない。まさに絶好のチャンスであったのだ。


「Good bye♪」


 俺が引き金を引こうとしたまさにその瞬間であった。後方から凄まじい勢いで何かが飛んでくるのを察し、すぐさま俺はその場から飛びのく。

 そして俺が元居た地面をものすごい勢いで削り取ったそれは大猿が投げたのであろう岩であった。

 だが後ろにはもう他の大猿が居ないことは確認したはず。今だって一体も見えない。なのにどうして後ろから岩が飛んでくるんだ?


『何だ? 増援か?』

『いやでも敵の姿はなさそうだけど』

『なんもない所から岩飛んでくんの意味不明過ぎる』


 姿を消している大猿が居るのか? だがそんなに後ろを確認する暇はないか。とうとうボス猿が動き出したみたいだし。

 俺に撃ち抜かれた右腕は気が付けば既に再生していた。この怪我の治癒のために仲間の大猿達に岩を投げさせていたのだろう。

 群れの中心に誘い込んだのではなくただ腕を再生させるまでの時間稼ぎって事か。


「どうやらボスを倒す絶好のチャンスはなくなったみたいですね。ここからが勝負って事ですか」


 俺はすかさず主神の槍を手にボス猿へと斬りかかる。そして一瞬の違和感を体に覚える。

 それはどう言葉で言い表せば良いものか。とにかく、何か動きにくい、そんな印象であった。


『¥&(,,!dgb&”!?』


 ん? 何か驚いてるぞ? やっぱり何かやったんだな? それがどういう能力かは分からないけど、驚きによって生まれたボス猿の隙をすかさず狙う。

 一閃。


 薙刀の形に変形させた主神の槍から放たれた斬撃が地面を走り、ボス猿の元へと到達する。

 斬る力に特化した槍の形。だがそれはボス猿の体に傷をつけるには至らなかった。

 なんだ? 妙に硬くなったな。


『ジョーカーの一撃が効かない?』

『リボルバーじゃ吹き飛ばせたのに』


「どういう能力かはわかりませんが、力でねじ伏せればそれで問題ないですね」


 俺の中で最大火力が出るのはステータス数値を乗せることができるこいつだ。

 リボルバーを前に向けて構えると撃鉄を弾く。


「It's show time♪」


 凄まじい反動を手に感じながらもリボルバーから放たれる極大の光線はボス猿を飲み込まんと迫りゆく。

 最初とは違い、全身を完全に捉えた攻撃。これを食らえば一溜まりも無いんじゃないか? さあ、どうする?


「&%$’)&#*‘!!!!」


 俺の攻撃に対しただ奇怪な雄たけびを上げる事しかできないみたいだ。てことはこれでチェックメイト……うん?

 それまで俺の視界に入っていたのはボス猿だけであった。何故ならボス猿さえ倒せば他の大猿共は統制が取れずに散り散りになるだけだから。

 だからこそ気が付かなかった。いつの間にか俺の四方八方を巨大な岩が飛んできていることに。


「まっずいです……」


 回避する間もなく大岩の大群が俺の体へと突き刺さってくる。そうか、さっき気が付くべきだったんだ。

 こいつらのコントロール馬鹿みたいに良いなって思ってたけど違う。全部が操ってたんだ。

 じゃなきゃ俺が気が付かない軌道から岩が飛んでくるはずがない。さっき体に違和感を覚えたのもその念力みたいな力で俺の体を止めようとしたんだろう。

 大量に体に打ち付けてくる大岩に少し意識が持っていかれそうになってくる。


『ジョーカー!?』

『ちょっと……流石にジョーカーでもヤバいんじゃないこれ?』

『おおい! お前は俺たちの希望の星なんだよ!』

『死ぬなジョーカー!』

『がんばれ!』

『死なないで!』

…………

……


 視界の端に見える視聴者たちのコメントが目まぐるしく流れていく。だっせえなぁこんな心配されて。このザマじゃあ西園寺さんに啖呵切って一人で戦ったのバカみたいじゃん。


「……皆様ご安心を。私が負けることはありません。何故なら私はエンターテイナーですから。SHOWの主催者が死ぬなどエンターテインメントとは程遠いでしょう?」


 大岩が絶え間なく体に降り続ける様。その間にリボルバーへと蓄えたステータス。それを一気に放出しちまえばこんな状況は打開できる。

 ま、多分俺もちょっと巻き添え食らうけど。


「その目に焼き付けておいてください。エンターテインメントでは起承転結の転があれば必ずハッピーエンドへと結ばれる定めなのですから」


 一気に撃鉄を弾き、俺のステータス数値2億をすべて乗せた一撃を撃ち放つ。その極大な光線は若干俺の腕を焼きながら大岩を消滅させていく。

 そしてその先で胡坐をかいていたボス猿の体を貫く。


「$%$%#’&%$%$%!!!!!」

「近くで聞くと騒々しいですね。ですがSHOWを盛り上げてくれたご褒美にせめて最後は派手に飾ってあげましょう」


 手に持つのは焔を纏った主神の槍。薙刀の形が斬るのに特化しているのだとしたらオリジナルのこの槍の姿は貫くのに特化している。


「これでチェックメイトです! Good bye♪」


 そのまま俺は主神の槍をボス猿の顔面に向けて思い切り放り投げる。

 そしてその槍は見事にボス猿の顔面を貫き、絶命させるのであった。

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ユグドラシルの攻略者~俺にだけ課せられたクエストをこなすためにダンジョン最深層にばかり籠もっていたら、地上では常にランキング1位の謎の探索者になっていた~ 飛鳥カキ @asukakaki

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