七、王祥

継母人間有 王祥天下無

至今河水上 一片臥氷摸


継母けいぼ人間じんかんに有り 王祥わうしやう天下に無し

今にいたつ河水かすいの上 一片いつへん臥氷くわひようあり


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 王祥は幼稚いはけなき時分に母と死にわかれた。父は再び妻をめとり、其名をば朱氏と申した。継母ままははには御定まりのことながら、彼女も又、父子の仲らいを殊更に悪しく言ひして、父に子をにくませたものの、子は怨みずして継母ままははにも善く孝敬こうきょうを尽くした。

 斯様かようなる人なれば、冬の極めて寒き折節だのに継母ままはは生魚なまいおを所望する時など、王祥は肇府じょうふと云う地の河へ是をもとめに向かう。然有さあれど厳冬まふゆの時節、河面かわも氷冱ひょうごして閉ざされ、魚影いろこは見出せぬ。彼は着物を解いて裸形らぎょうとなり、いたう結びし氷にうつぶす。うしていおの見えぬを悲しみくらしていると、此の氷の些か融けて、其処そこよりいお二疋の躍り出た。王祥は直ぐさま其れを獲って帰蓽きひつし、継母ままははの膳に供したのであった。是こそひとえに孝心の故の勝事であったろう。

 爾後しかつしよりくだんの場処には毎年、人の臥したるかたちが氷上に顕れるらしい。

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