モブの青春に重い愛は必要ない〜青春色の想い出〜

ゆきぃ

第1話 モブと日常の欠片(プロローグ)

人生の主人公は自分だと、何処ぞのキャラが

言っていたが、あれは本当だと思う。

だって、主人公は拒否権も持っていれば、

ラッキーな体質の者もいるのだから、その気になれば

自分にだって起こりうるのだと勘違いしてもおかしくはない。


しかし、これから語られるのは、悲しきかな

どう足掻いても主人公になれない、僕の日常である。






「天葵…ちょっと良いかな?」

「…なぁに?お姉ちゃん」

柄崎姉妹は中学生の頃、父親が病気で亡くなり、

実家が金持ちである母の家に一時期住んでいたが、

学校で浮きたくないという天葵の要望のもと、

矢崎高校の近くにマンションの部屋を2つ、

そして一軒家を建て、普段は天葵が一軒家の方を

使って生活している。


今日はそんな天葵が住んでいる

一軒家に天葵の姉である柄崎季奈が訪ねてきていた。


「前さ、私恵美ちゃんに心当たりないか聞いた時さ…

アンタ無いって言ったよね?でもさ、恵美ちゃん茂くんの

お姉ちゃんなワケじゃん?知らないこと…無いよね。」


以前、季奈が目をつけた西木田恵美は、

天葵の恋人である西木田茂の姉であり、

茂に嫌われたくないという思いで、姉に黙っていた事を

今、こうして掘り返されているのだ。


「…お姉ちゃん、一応恋人のお姉さんの情報

売るって相当頭ぶっ飛んでるからね?しかも個人情報だよ?」

「…大丈夫だって。」

「それ教えたら茂くんの家に突撃するでしょ?」

「…でも」

しかし、妹とはいえ、今回だけは姉に勝てるだけの

状況と情報が揃っていた。

最近茂を襲った水島という女子生徒を

季奈に預けた後に、水島をうまい具合に使い、

定期的に情報を送らせていた。

すると出てくるわ出てくるわ、

姉のやっている犯罪行為一歩手前の悪事の数々。


「お姉ちゃんさ…茂くんのお姉さんの友達に脅迫したけど

失敗したんでしょ?」

「…何でそれを?」

「あと、わざわざ住所、聞こうとしたけど無理途中で職質されて、

警官をスタンガンで気絶させたことも…。」

「…水ちゃんか…。」

呆れるものだ、自分の姉がこうも単純だと。

権力や学力はあるものの、こういったところまではちゃんと

考えれていない。

頭を抱えている様を天葵はコーヒーを啜りながら優越感に浸っていた。

そう、状況をまったく理解できていない自分の恋人の茂を横に。

「天葵サン…?どういう状況?これ…」

「良いのよ、茂くん。全部お姉ちゃんのミスだし、お姉ちゃんの

失態。それにこの人、抜け目が多すぎるんだから…。」

茂は用意されたコーヒーを飲みながら、心のなかで季奈に

哀れみの感情を向けていたのだった。


茂の家と天葵の生活している一軒家はすぐ近くにあり、

歩いていくと約15分ほどの距離にある。

そのためここ最近は以前襲われた未梁みはりからも

身を守るために、こうして天葵の家に遊びに来ているのだ。

「ハッ…!そうか!」

「…お姉ちゃん?」



「私が恵美ちゃんの家に泊まれば良いんだ!」




この後、壮絶な姉妹喧嘩が目の前に起こることなど、

茂にはもう既に分かりきっているようなものだった。






その頃一方、原因となった恵美は、

「いやーやっぱり海はいいねぇ。」

天葵の詫びとしてフェリー旅に招待されていたのだった。




茂と天葵は、ここ最近、二人で作っているものがあった。

それは、一日日記。

日々の生活であった出来事を、互いに書き合うもの。

毎日歪んだ愛情をぶつけられる茂にこそ、

それを必死に守って、愛を感じている天葵だからこそ、

忘れてしまうほどの小さな出来事を、思い出せるようにと

二人で作ったものだった。

「今日は私か…じゃあ、まずは茂くんの書いた

もの、読もうかな!」

天葵は茂の書いた1ページを、ゆっくりとめくった。



タイトルは、「タピオカも案外悪くない」




                   続く。



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