第20話 女神③
久しぶりにゆっくりと食事を楽しむ事が出来た。ラサナの両親の怪我を治した後、俺達はマウロン達から最高のおもてなしを受けた。
ほとんど村で収穫されたという新鮮な食材達で調理された料理は最高に美味しかった。ラミーシャもかなり満足したようで、すっかり打ち解けてエミナやラサナ達と談笑していた。
日の出と共に魔獣討伐に出る事をマウロン達と約束して、俺達に今晩寝る部屋を貸してくれた……。
貸してくれたのはいいが…………。
「うむ。良い部屋じゃな」
「いい部屋だ……ベッドがもう一つあれば最高だったがな」
「余と同じベッドで寝れば問題ないじゃろ?」
「…………………………断る」
結局ベッドの中で頬を膨らませてぶーぶー言ってるラミーシャを無視して、俺は床に寝袋を置いてその中で眠った。
◇◇
まだ空は白み出した時間帯だったが、俺とラミーシャはマウロンの家を出る。俺達がまず向かったのは二頭の魔獣が破壊したという家畜を囲んでいた柵だ。
襲われたエミナの話では二頭の熊の魔獣が森の方から出現したらしい。
そしてその魔獣は異様に長い爪があったということだった。俺はその特徴に当てはまる魔獣を知っていた。
リパードベア……。リパードとは切り裂くという意味らしい。その長い爪で獲物を切り裂いて捕食することからそう名付けられたそうだ。
破壊された柵にはリパードベアの長く深い爪痕が至る所に残っていた。
その爪痕を確認しながらラミーシャが俺の方に振り返る。
「リグス。そのリパードベアとやらは見つけられるのか?」
「ああ。何度かこの村を襲ってるから巣が近いのは間違いないだろう。そうすればコイツの通り道も決まっているだろうな。だったら探すのは簡単だ」
「よし。ならばその熊を早速討伐に行くのじゃ!」
俺達は村の外れから森の中へと入って行った。俺の読み通り、リパードベアは足跡や爪痕など多くの痕跡を残していた。俺達はその痕跡を辿って森の奥へと進んでいく。
◇
やがて俺達は森の奥で大きな横穴を見つけた。リパードベアの足跡はその穴へ続いている。
「あの穴が奴らの巣かの?」
「間違いねえな」
木の陰に身を隠しながら穴の周辺を見る。
さて、どうやってリパードベアをおびき出すか……。
腰袋を探り、ぶつけると黒煙を吹き出す目眩ましの玉を見つけた。
「ラミーシャ。これを巣の中にぶち込む。出て来たところをお前の魔法で仕留める。それでいいか?」
「うむ。妙案じゃ」
あの巣穴に他の出口があれば出て来ねえかもしれねえが、ここから見る限り、それほど深い横穴には見えない。せいぜい十数メートルだろう。
俺とラミーシャは穴の正面に移動し、離れた所から穴の中の様子を探る。朝日は穴の数メートル中までしか照らしておらず、奥は真っ暗で見えない。
まあ、玉を投げ入れて出てこなければ別の方法を考えればいい。俺は狙いを定めて玉を巣穴めがけて投げ込んだ。
小さな破裂音の後、しばらくして黒煙がその横穴から上がる。周りを確認するが、俺達の目の前の穴以外から黒煙は上がっていなかった。
だったらあの穴の出入り口はあそこだけだな。
黒煙が吹き出す横穴の奥から低い唸り声が響いてくる。横穴から目を血走らせ、牙を剥き出しに唸るリパードベアが姿を現す。
まだ一頭だ。もう一頭も必ず顔を出すはずだ。
ラミーシャは既に魔法の詠唱を始めていた。
穴から這いずり出てきたリパードベアが周りの様子を窺う。それを追いかけるようにもう一頭のリパードベアが穴から姿を現した。
「二頭同時に攻撃しろよ」
「了解じゃ」
ラミーシャにもう少し待つように指示して身を隠す。二頭のリパードベアはまだ俺達の存在に気付いていない。
あの長い爪があるのに器用に四本脚で歩くんだな、と感心しながら様子を窺う。
二頭のリパードベアが穴から完全に姿を見せた瞬間、ラミーシャが魔法を発動させた。
リパードベアの足元から数本の土の槍が飛び出す。槍はリパードベアの胴体と四肢を捉える。
反応したリパードベアがその槍の何本かを前脚で叩き落とすが、別の槍が胴体に突き刺さる。
「むっ……意外と硬いの」
「なに?」
リパードベアの胴体に突き刺さった槍は確かに刺さってはいるが、貫通はしていない。
「突き破るつもりで出したんじゃがの……」
「大丈夫だ。効いてる。続けろ、ラミーシャ」
「了解じゃ!これで仕留めるのじゃ!」
更にラミーシャが詠唱を続け、次は針山のように短く鋭い土の針が無数にリパードベアの足元の地面から飛び出した。足裏を貫かれたリパードベアが激痛に咆哮を上げて地面に転がる。
「これで
土から飛び出した頭ほどの大きさの玉がいくつも宙に浮かぶ。そしてその玉から鋭い無数の針が突き出た。針球と化したいくつもの玉が空中からリパードベアに襲いかかる。
得体のしれない物体に襲われたリパードベアが悲鳴のような咆哮を上げた。
ラミーシャの操る無数の針球は地面を転がるリパードベアの巨体でバウンドするように、何度もリパードベアに降り注ぐ。
針球は二頭の間を何度も往復する。鋭い針球に攻撃されて、二頭のリパードベアの周りの地面が鮮血に染まっていった。
「これでとどめじゃ!」
地面をのたうつリパードベアにラミーシャはそう言うと、手の平を返して天を指差した。
リパードベアが寝転んでいる地面からひときわ太い土槍が飛び出した。そしてその槍は見事に二頭のリパードベアの巨体を貫いた。
リパードベアの巨体は地面から生えた円錐状の槍に貫かれ、その中ほどで止まっている。そしてその槍から逃れようと必死に四肢を動かす。
「まだ生きてるか。では追加じゃ」
更に追加された数本の土槍が身動きの取れない二頭のリパードベアを貫いた。二頭のリパードベアはほぼ同時に口からゴボゴボと血を吐きながら絶命し、巨体から力が抜け落ちた。
…………強え……圧倒的過ぎる。なんちゅう魔力量だよ。
今までもラミーシャの魔法は何度も見てきたが、今回はあまりにも圧倒的過ぎて、俺は言葉を失っていた。
出会った頃はまだ自分の魔力が体に馴染んでいないと言っていたが、徐々に馴染んできているということか?
土属性の魔法だけでこんなにも簡単に凶暴な大型魔獣を倒せるもんなのか?
少し寒気すら覚えた俺がラミーシャに目を向けると、ドヤ顔で俺を見つめていた。
「どうじゃ?リグス。凄いじゃろ?」
驚いている俺を気にすることなく、薄い胸を張る。
今更ながら……俺はとんでもない女に気に入られてしまったのかもしれない……。
逃げ専冒険者と大魔導師〜山に籠もっていた大魔導師を討ち取ったら美少女に求婚されたり、逃亡することになったり色々と人生が劇的に変わってしまった話〜 十目イチヒサ @tome131
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