第8話

 

 『疲弊電波日記・前日譚

 ~夜香花(イエライシャン)~』


休日出勤したある日、わたしは真っ直ぐ帰宅せず逆方向の電車に飛び乗った。

どこか"遠く"へ行きたかった。

 

電車は終点につき、わたしは夜の見知らぬ街へと繰り出した。茶髪の呼び込み衆を回避しながら、ぶらぶらしてると、巨大な看板を掲げたサウナの前に出た。

ここ数日、仕事場に泊まり込みが続き風呂に入ってないわたしは、そこに立ち寄る事にした。

 

受付けのケバイおばちゃんに入場料を払い、風呂場へ向かう。何故か浴場の中にベッドが設置してあり、マッサージを受けれるようになってる。更に奇妙な事に、マッサージ士は若い女性だ。

(え・・・?ここ男性用浴場だよね?)

と思う間もなく、そこにチ*コをぷらぷらさせたオッサン達が近づき、マッサージを頼んでる。・・・そんなバカな!

 

でも、その時のわたしの思考力は著しく低下していた為、(変なサウナ!)としか思わなかった。

 

わたしは風呂に入り体と頭を洗った。そして風呂上りのコーヒー牛乳を飲むべく自販機へと近づいたが、その横の赤い看板が目に入った。

 

『この上、レストランPM6:00~0:00』

 

わたしは上の階のレストランに向かい生ビールを飲むことにした。席につくと、オカッパ頭のウエイトレスが近づきオーダーを取る。妙な訛りがある。日本人ではないようだ。


生ビールとコロッケを注文した、が、"彼女"は席を離れずに更に聞いてきた。

 

「他ニ注文ハ、アリマセンカ?」

「えーっと、じゃ、冷やっこ」

「他ニ注文ハ、アリマセンカ?」

「・・・えーっと、ナイ」

「御一緒ニ、"ワタシ"ハ如何デスカ?」

「はぁ?」

 

笑うとこだと思い、口をVの字に開けた時、その娘の背中越しに他の客が別のウエイトレスを膝の上に乗せ、いちゃつく光景が眼に飛び込んできた。そして、その後ろには恋人同士のように腕を組みながら別室へと消える客と店の娘の姿が・・・

 

わたしの頭の中で、この奇妙なサウナに対する「?マーク」が、いっぺんに消え、悟った。ここは"ソウイウ店"なのだと・・・

 

 

わたしは丁重に彼女の申し出を断り、ビールを急いで飲み干すとそのサウナを逃げるように出た。そして自室へ向かう電車に飛び乗ると、ぐったりと席に腰を掛けた。


わたしは何故、先程のウエイトレスの「オーダー」を退けたのか?モラル?財布の中身?"彼女"が好みでなかった?

 

・・・いえいえ、理由は狼狽して目線を落とした時に見た"彼女の手"です。

 

その手には、彼女の若々しい容姿からは思いつかない程、年老いた深い皺が刻まれていました。

 

 

走る電車の窓に流れる夜景をみながら、なんだか切なくなり泣けてきた。

 

 

 -劇終-

 

 

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再録:疲弊電波日記 @tsutanai_kouta

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