第6話 独言を言いながら入店はするな
ガムのボトルをカフェのテーブルに置いて神崎鷹志は小高友人を待っていた。そしてコーヒーを飲んでいる鷹志の頭上ではガムの神様がふわふわとタバコの煙のように漂っていた。
「もうさ、お前が上に漂ってるの、慣れちゃったんだよね。」
俺さ、君のやさしさに慣れちゃったんだよね、みたいな口調で鷹志が話しかけた。
「お前に話しかけながら、店に入ってきたとき、店員がやべえ奴来たって身構えてたもん。」
それは知らんよ、とか言いながら、ガムの神様は物珍しそうにあたりを見回している。
「禁煙席にしますか、それとも喫煙席にしますかって聞かれて高校生なのに喫煙席行ったほうがいいかなって思ったもんね。」
喫煙席ってそういや行ったことないな、とガムの神様は漂いながら言った。
「今時、喫煙席あるのかよって思ったの席着いてからだよ。」
びっくりしちゃうよね、と言いながらコーヒーをすする。それは、知らん、と言いながら、ガムの神様は一口大の大きさに変形した。その姿に視線を逸らせないでいると、ガムの神様が、なんや?と聞いてきた。
「昔、ヒーロー物が好きだったんだけどさ、お前の変身見ても全然憧れないのな。」
やかましいわ、と言いながら、ガムの神様は今度はメニューを見始めた。
「抹茶パフェです。」
ウェイターがやってきた。パフェを置いた後、ウェイターが鷹志の顔を不自然に覗き込んでから去って行った。
「めっちゃ見られてたんやけど。」
鷹志は眉をひそめながら言った。よく見れば、周りの客もたまにこっちのほうを見ていた。
「入ってきたときからそうやで。」
メニューとにらめっこしながらガムの神様が言った。はやく言ってくれよ、と鷹志はガムの神様を睨みつけた。
「よく考えや、入ってきてそうそう、ガムのボトルと会話してる男を見たらおまえならどうする?」
たしかに気になってその人の顔をまじまじと見るかもしれない、鷹志は思った。そのとき、窓の外にいる友人と目がたまたま会った。どうやら歩いてきたらしい。鷹志は救われる思いだった。
カミガミ(初期構想) 岡野梨花 @koki1717
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