第8話 お兄さん

 私の部屋に兄が来た。

 私にお土産のケーキを渡し、部屋に入るなり兄は部屋の中心を睨んで一言呟いた。


「……部屋に変なのがいるな」

「やっぱり?」

「ああ。パッと掃除して結界を張ってしまおう」


 ここ数日、部屋で色々あったため、念の為に兄に部屋を清めてもらう事にした。私は見える事は出来るが、祓ったりする才能はなかった。その代わり、兄はその才能があった。今は父の元で修行しながら、依頼を受けて全国を飛び回っている。

 私がケーキを盛り付け、コーヒーを入れている間に兄は部屋の中心に座って祝詞を唱えていた。柏手を一つ打ったタイミングで用意が出来て、部屋の中に入る。

 大掃除をした後のように空気が澄んでいた。思わず息を吸い込む。


「ありがとう」

「おう。これくらい軽い。お前は昔から俺より見えるのに、祓おうともしないでそのままにしているからそれにつられて色々体調が悪くなるんだ。父さんもいつも気をつけろと言っているだろう」

「わかってる」

「また「掃除」にくるからな」


 兄はチョコケーキを食べながら言う。兄が父の後を継いだのも、私を守る為だということを知っている。私が怪異関係で体調を崩した時、助けてくれたのは父と兄だ。二人には感謝してもしきれない。

 だが、兄は霊や物怪には容赦しない。どんなに相手が泣き叫んでも必ず祓ってしまう。圧倒的な霊力で強制的に消滅させてしまうのだ。そこが父とは力の使い方が違う。父は言葉巧みに説得し、そこから移動させたり、成仏させるようなやり方をする。これがうまい。兄も、このやり方では父には敵わない。父は神の代行としてたまに古き神々の相手をするが、兄は昔、粗相をして以来、この近辺の一部の古き神々から睨まれている。なので私の実家は神々の相手は私と父。それ以外の怪異や悪霊の相手は兄というような役割分担が自然と出来ていた。


「ところでお兄さん。結界の色、金ピカなんだけどなんで?」

「派手でいいじゃないか」


 とても霊力が強い兄であるが、いささか派手好きなのが欠点である。部屋を囲うように貼られた結界の色は眩しいほどの黄金色だった。

 凄く強い結界なのはわかるが、なんだか居心地が悪い。だがそれは言えないので、私は諦めてコーヒーを飲んだ。

 兄は、とても私に優しいのだ。

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不思議なモノに慣れきった見える私の日常 夜見 遊 @Elysiun

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