目覚めた少女

@saramandora_matumoto

第1話 目覚めた少女

 2900年、ガーデハイト合衆国のとあるアンドロイド廃棄場…大量に積まれたアンドロイドだったものの山の中で一つの意識が目覚めた。

???(…暗い…それにすごくうるさい…体も思うように動かない…ここは、どこなんだろう…)

 同廃棄場、Dセクター休憩所

作業員A「ったく、廃棄処理業なんかやってらんねぇよなぁ。」

作業員B「ほんとほんと。前の大戦のせいで大量のアンドロイドの残骸処理をほぼ無償でやらされるんだからたまったもんじゃねえよ。」

作業員A「あーあ、なんかこう…驚くようなことねぇかなぁ。」

作業員B「俺は今のままで十分。向こう10年は何もなくても文句は言わねぇな。」

作業員A「嘘つけ、毎日毎日口開くたびに暇だ暇だ言ってるくせに。お前が1時間後に暇だって言うのに10ダリル賭けてもいいぜ。」

作業員B「失礼な奴だな。だったら1時間後まで言わなかったらほんとに10ダリルよこせよ!」

作業員A「ああいいとも。それまで言わずに堪えられ…」

二人が話していると、突如けたたましいサイレンが鳴り響きすべての作業が中断される。何事かと身構えていると、付近のスピーカーからアナウンスが入った。

アナウンス『作業員各員に通達!廃棄セクターD-4にて、人間のものと思わしき腕が確認された!住み着いているホームレスが生き埋めになってのかもしれん!D-4付近の作業員は至急確認に向かってくれ!』

作業員B「…10ダリルは俺のもんになりそうだな。」

幸い廃棄セクターD-4に近かった二人は、急いで確認に向かう。ある一部分に煌々とサーチライトが照らされている。近づいて確認してみるとそこから人の腕らしきものがみえた。どうやら見間違いではないようだ。

作業員B「おいおい…マジに人の手だぜ…」

作業員A「言ってる場合かよ!とにかく掘り起こすぞ!せーのっ!」

二人がかりで腕を引き抜く。すると思いのほか簡単に引き抜くことができ、二人はしりもちをついてしまった。

作業員A「いてて…おい、大丈夫か?」

作業員B「こっちは何ともないが…それより見ろよこれ…」

二人は引き抜いたものを見る。透き通るような白い肌、整った顔立ち、廃棄上に似つかわしくない淡く光る水色のドレススーツを身にまとった女の子が出てきた。出血は見られないが、体の端々は傷ついており、痛々しい見た目をしている。

作業員B「お…お嬢ちゃん…?大丈夫かい…?」

少女「…だいじょうぶ…」

作業員A「名前とか言えるか…?」

少女「なまえ…わたしのなまえは…わからない…」

作業員B「わかんない?そりゃ困ったな…」

少女「でも…わたしにはやることがあるの…」

作業員B「やること?それっていったい…」

すると突然周りのがれきが崩れ無数のアンドロイドが出てきた。もともと廃棄されるものだ、四肢がないもの、下半身がないものなど、各々が大破し、もう動けるはずのないものばかりだった。

アンドロイド「テキヲ…カクニン……センメツセヨ…」「センメツセヨ…」「センメツセヨ!!」

アンドロイドたちは同じフレーズを繰り返しながら、じりじりと近づいてくる。

作業員A「なんだこいつら!壊れてんじゃねえのかよ!」

作業員B「だめだ囲まれてる…ここまでの刺激は求めちゃいねえぞ!」

作業員A「言ってる場合か!!指令センター!アンドロイドが動き出した!コードレッド!繰り返す!コードレッドだ!wdoに連絡してくれ!」

作業員B「こりゃもう駄目だな、俺たち…」

二人が絶望していると少女が叫ぶ。

少女「ふたりとも…!その場でしゃがんで…!」

そう言うと、女の子の目が水色に輝く。途端に彼女の背部から複数のファンネルが出現し、レーザーポインターでアンドロイドたちに照準を向けた。

少女「複数の敵対アンドロイドを確認。民間人がいることを考慮し、出力を20パーセントまで低減、多面飽和攻撃を開始する。」

その言葉をきっかけにファンネルから大量のレーザーが絶え間なく発射される。一発一発の威力はそれほどでもないが、物量で抑えているようだ。次第に所狭しといたアンドロイドたちも徐々に、動く数が減っていき、最後にはすべてが鉄くずと化した。

作業員A「…すんげぇ…いくら壊れていたとはいえ、あの量のアンドロイドをこんな短時間で…」

作業員B「お、おいお嬢ちゃん…あんたいったい何者なんだ…?あの武器はどうやって出したんだ?」

少女「わたしは…何者なのかはわからない。背中のも、ふたりを守らなきゃと思ったら出たの。」

作業員A「しかしありゃぁまるで…大戦の時の…」

???「全員動かないで!」

突如、透き通った男性の声があたりに響いた。声の方向を見ると、特殊部隊が身に着ける比較的軽装の防弾アーマーと腰マントを身に着け、フルフェイスマスクを装着した人物が立っていた。手にはあまり見ない形をしたハンドガンらしき銃を二丁携えている。その場の全員が見つめているとフルフェイスの男性は軽く咳ばらいをし、話し始めた。

サム「私はwdoのエージェント、サム・フランシスだ。複数の暴走したアンドロイドが出現したとの報告を受け、現着したが…該当するアンドロイドは一切見受けられないな。そして、先ほどこちらから異常な光を確認したのだが…いったい何があったのか説明のできる者はいるかい?」

作業員A、B「それなら、全部彼女が…」

作業員の二人は、先ほどまで眼前であったことを、興奮しながらも、事細かにサムに説明した。サムは二人の話を聞きながら、持っていた手帳に熱心にメモをとっている。

サム「なるほど…彼女があなたたちを守ったのですね…。素性についてはなんと?」

作業員B「それが…武器のことはおろか、自分の名前すらわからないらしく…ただ、やることがあると言っていました。」

サム「なるほど…ねえ、お嬢ちゃん。君が言ったやることって何だい?」

少女「詳しくは思い出せない…でもやることがあるってことははっきりと思い出せるの…」

サム「そうか…」

サムはあらかたの聴取を終えると、携帯していた無線でどこかに連絡を取り始めた。時折、検査、保護といった単語が聞こえることから、この少女のことについて話しているのだろう。ひとしきり通信を終えたのを見計らい、作業員がサムに声をかけた。

作業員A「あのぉ…この子いったいどうするんです?身寄りもないみたいだし。」

サム「ん?あぁそうですね…お話にあった兵器の件もありますので、当分は我々、wdoのほうで預かる形になります。彼女の身元や親族の方が確認でき次第、引き取っていただくことになるでしょう。」

その言葉を聞き、作業員の二人は安堵し、ほぅっとため息をついた。

作業員B「それならよかった…お嬢ちゃん。これからはこのおじさんの言うこと聞くんだぞ。助けてくれてありがとうな。」

サム「おじさ…(咳払い)ということでお嬢ちゃん。”お兄さん”と一緒に行こうか。」

少女「うん。」

サム「そういえば、ずっとお嬢ちゃんと呼ぶのもなんだかな……そうだ!君のことを名前がわかるまで『アナ』とよんでもいいかな?」

少女「アナ…とてもいい響き…」

サム「気に入ってくれたならうれしいよ!それじゃあ改めて…僕はサム。これからしばらくの間よろしくね、アナ。」

アナ「…よろしく。」

そういって二人はwdoの車に乗り、その場を後にした。

作業員A「いやぁ、一時とはいえ、引き取り先が見つかってよかったよ。」

作業員B「ほんとほんと。それにしても…なんであんな女の子がこんな廃棄場なんかにいたんだ?捨てるにしたってもっと場所があったろう。かわいそうに…」

作業員A「まあ何とかなったんだし一件落着だろ。さ、仕事仕事~っと。」

作業員B「…お前、10ダルクのことうやむやにしようとしてるだろ?きっちり全額もらうからな!」

作業員A「覚えてやがったか…こんなことあるとは思わねぇだろ?だからチャラにしてくれよ、な?」

作業員B「絶対嫌だね!これに懲りたら今度から発言にゃ責任を持ちな!」

作業員B(それにしても…なんでアンドロイドたちは急に動き出したんだ…?)

こうして廃棄場で起きた一件は幕を閉じた。そしてこの一見をきっかけに、世界がまた大きく動き出していくことになるのだった。


 同日深夜、一人の作業員がD-4セクターにいた。作業員Bだ。彼は探求心が高く、昼間に感じた疑問の謎を解こうと無断でセクターに侵入し、ヘッドライトであたりを照らしながら素人ながらにアンドロイドを調べていた。

作業員B(Dセクターに運ばれてくるアンドロイドはすべて動力回路が動かないことをチェックされているものしか運ばれてこないはずだ。どうやって動いていたんだ……ん?)

作業員Bが一つのアンドロイドの頭を手に取る。頭は右上が壊れており内部の回路がむき出しとなっている。この回路がアンドロイドのコアの役割を果たしており、これが無事であればアンドロイドはどんな状態でも行動ができる。

作業員B(なんでこんな綺麗に回路が残ってるんだ?回路は別のセクターで分離させられるはずだ。それに残っていたとしてもここまできれいなことはあり得ない…誰かが人為的に直したのか…?)

???「オイ…」

作業員Bが思考を巡らしていると、背後から声がした。アンドロイドの部品はどれも高く売買されるため、スラムや貧困層の人間が、窃盗目的で廃棄場に侵入するケースも少なくはない。そのため、夜になると警備の人間が数名配置される。監視カメラなどの死角をついてきたと思っていたが、どこかで見つかってしまったのだろうとBは思う。すぐさま取り繕った笑顔と余所行きの声で弁明を図ろうと振り向きながらしゃべり始めた。

作業員B「い、いやぁすいません。ちょっと調べたいことが…え…?」

振り向いたBの身に着けていたヘッドライトが声の主の全容を照らし出す。170㎝あるBより二回りは大きいであろう体格を有し、右手に中国の拳法家が使うような棒を握っている。そして、地面につきそうなほどの長いマントと仮面を身に着け、体の至る所からギシギシと機械音を響かせ、配線をのぞかせている。それは明らかに人ではない。大型のアンドロイドだった。

作業員B「な…え…は…?お前、一体…」

Bが言葉を言い終える前に、アンドロイドが今にも握りつぶさんとするほどの力で、頭をつかみ軽々と持ち上げ話し出した。

アンドロイド「余計な詮索ハするもノジゃない…ソれが長生キの秘訣だ。来世で生かストイい。人間。」

そう言うとアンドロイドは易々とBの頭を握りつぶした。辺りに赤黒い鮮血が飛び散り、体はボトリと力なく地面におちる。そして左手にべったりと付いたBの血を勢いよく振り落としてから、ぽつりとつぶやいた。

アンドロイド「もウ少シだ…待っテイてクれ。同胞たチヨ…」

落ちたはずみにBのポケットから顔をのぞかせた10ダリル硬貨が、月明かりで輝いていた。

 to be continued

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