第53話
「それで、ゴルバード公爵令嬢が国際問題になることは阻止しなければいけないからと、公爵の命令を無視した。その結果、先にマリーに毒を飲ませたらしい」
「…………そうでしたか。ローズ様は今どこに?」
「牢に入れられている」
「どうなるのでしょうか?」
「まず、首謀者のゴルバード公爵だが、極刑は免れない。加担した貴族とその家族も爵位返上か領地縮小か。度合いによってそこは変わる予定だが、必ず罰を受けることになる。彼女も王太子殿下廃嫡に加担させられていたし、婚約者候補に毒を盛り続けたことを考えると重い罰になるだろう。婚約者候補じゃなくてもマリアベルに毒を盛るなんて、俺が自ら処刑してやってもいいくらいだが……。ただ、国際問題に発展するのを未然に防いだという部分を鑑みて、減刑される可能性はあるだろう。それは今陛下らが議会で話し合いをしているところだ」
あの頻繁に起こっていた体調不良がローズ様の手によるものだと知って、ショックではあるけれど不思議と恨む気持ちにはなれなかった。
彼女が父公爵の命令で毒を盛っていただけで、本人の意志ではなかったという言い分が、私には納得できたから。
ローズ様が侍女という名の話し相手として登城するようになってから、楽しい時間が増えたのは事実。
それに、ローズ様の為人を知っている。
私の知っているローズ様は、貴賤を問わない思いやりのある可愛らしい女性だった。
たまにふと憂い顔をしていることに気が付いていたけれど、本人が話してこないものを無理に聞き出さないほうが良いだろう……と、そのままにしてしまった。
無理にでも聞き出していれば、少しは違う結果になったかもしれない。
「ライ様。私、早く領へ帰りたいです」
「あぁ。俺も早く帰りたい。一緒に帰ろう」
「はい。一緒に」
その翌日、早速帰領しようとハリストン辺境伯家のタウンハウスで準備をしていたところに、ローズ様の刑が確定したと連絡があった。
ローズ様の刑は国外追放だった。
ゴルバード公爵家は爵位も領地も返上し取り潰しとなるため、ローズ様は平民へと身を落とすことになる。財産も一つ残らず返上となるので、着の身着のままで国外に出されるのだろう。
高位貴族の令嬢は、平民が当たり前のように行うその場でお金を払う買い物や掃除、洗濯はもちろん自分の着替えでさえも自分一人ではできない者が多い。不自由なく暮らしてきた公爵令嬢にとって無一文での国外追放は、死刑よりも辛い刑かもしれない。
けれど、恋人だという下男と再会して二人で手を取り合って生きて行ってくれればいいなと思うのだった。
また、今回の事件に加担した貴族は意外と多かった。
重要な大臣を外された伯爵が王家に恨みを持ち、ゴルバード公爵から話を持ち掛けられたのをきっかけにして、親戚の伝手を使って王宮に料理人を送り込んだり、給仕を送り込んだりしていた。
この伯爵自体は慎重に動いていたが、依頼された親戚の動きにより王太子廃嫡計画が露呈することになる。
ハリストン辺境伯領の隣の領地を治めている子爵もその一人だった。
辺境伯を継いでから社交もしないのに、定期的に王宮から直々に伝令騎士が来ることを王家の覚えがめでたいと思い込み、密かにライオネル様に嫉妬していたらしい。
そんな中、王太子廃嫡計画を知る。
武器の商会を営んでいるため、戦争になれば自分の商会が儲かるし、上手く行けば重要な役職についてライオネル様を顎で使えるのではないかと思ったそうだ。
子爵と伯爵、伯爵の親戚も爵位と領地を剥奪の上極刑になることが決まった。
残った家族は平民として放逐されたり国外追放になった。
他に関わった貴族も極刑は免れたが、爵位や領地を剥奪された。
また、叔父である現スワロセル公爵も事件に関わっていた。
叔父は詳細は聞かされず、計画が上手く行けば重要な役職に就けてやるという甘言に乗ったらしい。
夜会二日目に私をライオネル様から引き離して、ローズ様と共に毒入り飲料を飲ませるのが役割だった――というのは叔父が思っていたこと。
実際には、ローズ様は側にいるだけで、毒入り飲料を渡した叔父に全ての罪を擦り付けるのが本来の計画だったらしい。
叔父は本来の計画を知らずに、イザベラにその役目をやらせようと思っていたらしいが、前日にイザベラが暴走したことにより役割を全うすることができなくなった。
しかし、ゴルバード公爵令嬢自らマリアベルに近づいたので、静観していた。
偶然とはいえ、実行犯にはならなかったため極刑は免れた。
しかし、その罪は軽いものではない。
叔父は公爵位と公爵家の領地の剥奪となった。
長男が男爵位を継いでいたが、男爵領も一部返上の上、父と母を男爵領から出さない事を約束させられた。
そして、王太子廃嫡計画に関係ないところでトラブルを起こしたイザベラ。父が爵位剥奪されたことより平民として規律の厳しい修道院へ送られることになった。
憧れ続けた自由で華やかな世界とはほど遠い修道院で一生を過ごすことになる。
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