第43話
王太子殿下の婚約発表と二十歳の誕生日を祝う夜会は、恙なく進んでいた。
陛下から王太子殿下とリーメイ王女の婚約が正式に発表され、南の国との同盟も宣言された。
祝福ムードに盛り上がる夜会会場には、南の国からは第一王子殿下も使節団を組んで来ているようだ。
国王と王妃様、王太子殿下とリーメイ王女がダンスをし、他の王族の方や南の国の第一王子もダンスを披露する。その後、貴族たちが各々ダンスを楽しんでいた。
私もライオネル様と一曲だけダンスをする。
私は婚約者候補になってからダンスを叩き込まれていた。
ほぼ毎日のようにダンスレッスンの時間があったのでダンスには自信がある。
だけど、ライオネル様はダンスが苦手らしい。
踊りたくなさそうなライオネル様を誘って、渋々「一曲だけなら……」と同意を貰った。
そして、実際に踊ってみると、騎士らしく力強いホールドとリードでとても踊りやすかった。
「ダンスが苦手っていうのは謙遜だったのですね。もっと踊りたいくらいです」
「もう勘弁してくれ」
そうして一曲だけのダンスを終えてまた壁際に移動しようとしていると、ライオネル様に声を掛けたそうな貴族がいるのに気が付く。
辺境の領主や代々武官を輩出している家の当主たちだ。
「ふふ。皆様話したそうですね。私も少し挨拶に行ってまいります」
「わかった。あまり遠くにはいかないように」
見知った顔に挨拶に行くと言い、ライオネル様から少し距離を取ることにした。
しかし、実際は私に親しい間柄の令嬢はほとんどいない。
妃教育を通じて上辺だけの付き合いをしていた令嬢は多いが、婚約者候補でない今は私との付き合いにあまりメリットがない。
婚約者候補時代の取り巻きたちは私に見向きもせず、リーメイ王女の周りで話しかける機会を窺っているようだった。
「マリアベル様、お久しぶりでございます」
「ローズ様!お久しぶりですわ」
どうしようかと思案していると、ローズ・ゴルバード公爵令嬢に声を掛けられた。
婚約者候補だった時に侍女としてついていてくれた女性だ。
私がハリストン辺境伯領へ移った後、一度だけ体調を案じる手紙をくれたローズ様。
高位貴族の令嬢は普通なら誰かの侍女などしない。
ただ、未来の王妃の側にいることを許されるのは大変な名誉なことで政治的な意味合いもあるため、王妃や王太子妃の侍女に限り爵位の高い貴族令嬢が侍るのも珍しくない。
ローズ様は侍女といっても、自身も侍女が必要な箱入り娘のため、私のお世話をするのではなく話し相手としての役割が主だった。
だから、彼女とはたくさんお話をした。
「辺境伯様との仲睦まじいお姿、拝見いたしましたわ」
「見ていらしたのですか、恥ずかしいわ」
「ふふふ。羨ましい限りですわ。あら。わたくしだけが独占しては他の方に申し訳ないですわね。またお話してくださいませ」
ローズ様が離れるとすぐに腕をぐいと掴まれた。
何事かと視線を向けると、いとこのイザベラが腕を掴んでいた。
「マリア姉さま、お久しぶりです!やっと会えましたわ!実は姉さまにご相談があるのです!話を聞いてくださいますよね!?」
「……イザベラ」
イザベラの声が少し大きくて、何かあったのかと周囲の人がこちらを見てくる。
昔からそうなのだ。イザベラは貴族らしい振る舞いが苦手なようで、諭すと機嫌が悪くなる。
叔父は公爵家で育ったはずなのに、どうして娘にちゃんとした淑女教育をしないのだろうかと不思議だったが、公爵家を継いでも変わらないようだ。
「わかったから腕を離して。声ももう少し抑えてちょうだい」
「……わかったわ。ごめんなさい。でも、姉さまにしか相談できないことなの」
やはりと言おうか、一瞬むっとした表情をしていた。
だがそれも一瞬。
次の瞬間にはひどく深刻そうな表情へと変わっていた。
そんなにも相談したいことがあるのだろうか?
イザベラのいつにない深刻そうな様子に心配の気持ちが芽生える。
「相談って?」
「ここでは話せないことなの。部屋を押さえてあるからそこでもいい?」
ライオネル様の方を見ると、数人の貴族に囲まれて――武官ばかりで厳つい集団になっているけど―― 話に花を咲かせている様子。
「ねぇ。姉様、早く話を聞いてほしいの!お願い!」
あまり遠く離れないほうがいいのはわかっているけど、いつにないイザベラの真剣な様子に話を聞くことにした。
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