第42話
名前を読み上げられて会場に入ると、会場にいた貴族たちが次々こちらに向くのを感じる。
その多くは好奇心を隠そうともしない瞳。
ライオネル様は社交界で冷酷騎士と噂されているので、怯えたような目で見てくる者までいる。
王太子殿下の婚約者候補として、私は多くの目にさらされるのには慣れていた。
相手がどんな思いでこちらを見ているのか、目を見たら大体わかる。
婚約者候補だったときは、好奇心や値踏みする目、馬鹿にするような目もあったし、下心が隠しきれない目もよく見た。
ただ、今回はいつもとは違う種類の――初めて感じる視線がちらほら。
それは若いご令嬢たちからライオネル様へ送られる視線だった。
短く切り揃えた髪を横に撫でつけたダークグレーの髪に、透き通るような青い瞳。
ライオネル様は精悍でいて整った綺麗な顔立ちをしている。
すらりと背が高く着痩せして見えるけれど、服の下に隠された体は逞しいのだということもわかるのだろう。
近くを通った令嬢など、ぽーっと見惚れている位だった。
二十歳で辺境伯を継いでから夜会には来ていなかったというから、ライオネル様を初めて見る若い令嬢がほとんどのはず。私がそうであったように。
そんな様々な視線を無視して、あまり目立つことがないようにと壁際へ移動する。
頭上から短いため息が聞こえてきたので見上げると、ライオネル様がうんざりしたような顔をしていた。
「やっぱり夜会は苦手だ」
「ライオネル様は夜会は久しぶりなのですよね?」
「ライ、オネル様?」
(そうだった。先ほどこれからは愛称で呼び合うことを決めたのだったわ)
「ラ、ライ様は、以前は夜会に出られたこともあるのですよね?」
「あぁ。騎士の勉強のために王都にいた二年ほどの間はな。当時からうんざりだった」
「……ということは、そのときからおモテになられたのですね?」
つい拗ねたような口調になってしまった。
「―――知らない令嬢に囲まれても面倒なだけだぞ?」
「そうですか。囲まれるほどでいらしたのですね」
「失言だったな……。マリー?妬いているのか?」
妬いているのか?という指摘に、羞恥心が湧き上がった。
赤くなる顔を見られたくなくて、ぷいと後ろを向く。
「機嫌を直してくれ」
ふわりと後から抱きすくめられて、耳や頬にキスをされる。
しかもチュッチュッと軽いリップ音をさせて何度も。
(!?)
ライオネル様の大胆で甘い行動に、その甘さに照れるよりも先に驚きが勝った。
壁際にいるとはいえ、誰かに見られるかもしれない。
いや、あれだけ注目されていたのだからきっと見られている。
「わっ分かりましたからっ。離してください!」
「マリーが機嫌を直してくれたら離れる」
そう言って、今度は首に鼻を摺り寄せてきた。
ぞくりと身震いしたくなるような感覚になった。
(ひゃぁぁぁぁ!もうっむり!!)
「直ってます!直ってますっ!直ってますからぁ!!」
ライオネル様は、たまらずといった様子で「ふはっ」と軽く吹き出してから体を離してくれた。
漸く解放されたけれど、今度は恨みがましい目で見てしまう。
「ん?やっぱり機嫌が直ってないのでは?」
再び、ハグするように手を伸ばして一歩近づいてこようとしたので、両手を前に出して制す。
「直ってます!ご機嫌です!」
「ははっ。―――まぁ、これで少しは牽制になっただろう。邪魔されたくないしな」
そう言われてさりげなく周囲を見渡してみると、頬を染めて顔を背けている令嬢や赤くなった顔を隠しているのか扇で顔を隠している令嬢、目を見開いて凝視している貴人等様々だった。
「そういう……もっと違う方法でお願いしたかったです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます