第40話
初めてのキスに顔を真っ赤していたマリアベルだが、王太子殿下廃嫡計画があるという話が出ていたことを思いだした。
ライオネル様に王位継承権があることと王太子殿下の廃嫡はどう結びつくのだろうか?と考えて、ある一つの可能性に行きつく。
(王太子殿下が廃嫡となったら、王位継承権があるのはライオネル様だけだわ。犯人はライオネル様を王太子にしたいの?でも、何故?)
「落ち着いた?」
顔を真っ赤にして俯いていたが、王太子殿下廃嫡計画を思い出すと顔の赤みも取れて冷静さを取り戻していた。
ライオネル様はそれに気が付いたのだろう。
(そう言われると思い出して恥ずかしくなってしまうわ)
でも今はそれどころではない。
「王太子殿下廃嫡計画で犯人に何の利があるのでしょうか?」
「王太子はなかなかに優秀だという。黒幕は分かっていないが、野心をもっている高位貴族の誰かなのは確かだ。優秀な王太子を廃嫡に追い込んで、田舎の離宮や辺境で育った男なら御しやすいとでも思ったのではないか?前王は賢王ではあったが、貴族に優位な政策も多かったらしいな。現王は実力重視に改革を進めているから、屈辱を味わっている貴族も多い。甘い蜜の味を知っている者が甘い蜜を求めるために画策するのはある意味自然な事だろう」
「ゆくゆくはライオネル様を担ぎ上げようという者がいるのですね」
「規則だから継承権をまだ持っていただけで手放すつもりだ」
一拍開けてから「マリアベルは、王妃になりたいか?」と問われたので、即座に首を横に振る。
「私自身の希望はライオネル様の側にいることです」
ライオネル様はふっと満足げに笑った。
その後にちゅっと軽いキスをされて、また顔を赤くして口をパクパクとさせるしかなくなってしまう。
動揺する私を見て一層満足げに笑んだ後、ライオネル様はふっと真面目な表情に戻す。
「相手がどういう動きをしてくるのか分からないが、明日からの夜会の際に動きがある可能性が高い。それまでに何も動きがなければだが、先んじて夜会二日目に王により俺が王弟であることが公表される。同時に王位継承権を放棄する意志を宣言することになっている」
この国は原則、王族も貴族も血族の男による世襲制である。
そのため、王族は特に跡取りの存在が大事になる。
重大な疾患がある者や重大な犯罪を犯した者などの明らかに王の器としての条件を満たしていない者は例外として、王の血を引くもの ―― 王の息子または王弟 ―― が王位継承権を放棄するには条件がある。
王位継承者が王太子として即位していること
王太子の年齢が十五歳以上であること
三十歳未満での王位継承権放棄は認めないこと
この全ての条件を満たさなければ継承権の放棄はできない。
この条件は本人が望むと望まざるとに関わらず、王位を継承する者が絶えることを防止するための決まりである。
これは過去に無用な争いを避けるために王位継承権を続々放棄していたら、王と王太子が揃って流行病にかかり、王位継承権を放棄していなかったのが三歳の王子しか残っていなく、お目付け役の臣下に政権を握られて国が傾きかけた過去を教訓としてできた決まりである。
なお、王位継承権の順位が高い者に限り、この条件を守らなければならない。
つまり、王太子が立派に成人を迎えていようと、現在二十五歳のライオネルは三番目の条件を満たしていないため王位継承権を放棄することができないのである。
しかし、継承権を放棄する意志を表明することはできる。
現王の王弟アドルフは全ての条件を満たしていなかったが、事前に放棄の意志を表明していた。そして実際に全ての条件を満たした時に正式に継承権を放棄し、臣籍降下して今は公爵位を賜りオルティース公爵として騎士団長を務めている。
――マリアベルが、声が素敵……と密かに憧れていたその人である。
「マリアベルも夜会では念のため周囲に気を付けてくれ」
「分かりました」
「じゃあ寝ようか」
「あっ」
真剣な話が終わった途端に思い出してしまった。
同じベッドで寝る事にまだ慣れていないことを。
ドギマギしながら横になったら、「おやすみ」といってキスをされた。
(わぁぁぁぁライオネル様が急に甘いよぉ!ドキドキして眠れない!)
翌朝、ライオネルにキスされて起きることをマリアベルはまだ知らない――――
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