第39話
「ロバートは俺の乳兄弟なんだ」
「あ、前王陛下が静養された離宮があるのはバトラー子爵領でしたね」
「そうだ。たまたま領主夫人が出産直後だと知った前王が、子供が産まれたら乳母をするように命令していたそうだ。その時に子が産まれるまでは絶対に口外しないように言われていたため、バトラー子爵は前王妃にも知らせなかった。その結果、前王が崩御後に前王妃の権力を使って子爵領の一部を没収されてしまったんだ。今は現王が没収した土地を元に戻したが」
「そうだったのですか」
「あぁ、だからロバートとは子供の頃からの付き合いがあるんだ。前王が亡くなってからは暗く寒い離宮の建物から庭に出ることも許されなかったが、ロバートの母はいつもそばに居てくれたから寂しくなかったし、ロバートも一緒に離宮に住んでいたので、かくれんぼをしたり使用人にいたずらを仕掛けたり。二人でよく遊んだものだ」
ライオネル様はどこか遠くを見ているような目で話している。
「辺境に養子に出されてからは会えなくなったが、騎士の勉強の為に王都に来たときにロバートと再会したんだ。それで、俺が辺境に戻るときに一緒に来てくれた」
「…………良かった」
「……良かった?」
「前王が亡くなられてからは一人きりだったのではと胸が痛くなる思いでしたが。ロバート様やロバート様のお母様がいらっしゃったのだと分かって、一人きりではなかったなら良かったと。ロバート様との仲の良さにも納得しました」
「………………」
これまでしっかり目を見て話をしていたライオネル様が俯いてしまった。
(あ、誤解を与えてしまったかもしれないわ)
「あの、もちろんライオネル様の置かれた状況に良かったと言ったわけではないのです。一人きりではなかったのが良かったという意味で―――」
俯いていたライオネル様に突然掻き抱かれた。
その力は強く息苦しくなりそうなほどだった。
だけど、私の肩に顔を埋めてどこか縋るような様子でもあった。
「そんなふうに言ってくれたのはマリアベルが初めてだ。俺の生い立ちを知る人は少ないが、皆に可哀想だと言われ、哀れまれ続けていた……。マリアベルに言われて初めて気が付いた。俺は可哀想と思われたくなかったのだと」
「ライオネル様……」
ライオネル様の背に手を回し、そっと背中を撫でる。
何度か背中を撫でていると抱きしめる腕の力が緩んで、顔をあげたライオネル様と目が合った。
そこにはもう緊張感はなく、穏やかさが感じられる瞳になっていた。
「お側におります。嫌と言われても、ずっと」
「あぁ、ずっと……」
そういったライオネル様の瞳には熱が浮かんでいた。
吸い込まれそうな瞳を見つめているとゆっくりとライオネル様の唇がおりてきて、そっと唇が重なった。
「ありがとう、マリアベル」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます