第37話

 夜会は明日から二日間開催される予定で、今日はまだ時間がある。

 なので、今日も王都の街に繰り出す。

 宝飾品店で、夫婦の証ともなる揃いで身に付ける装飾品を買うためだ。


 ネックレス、指輪、ブレスレット、ピアス、ブローチなど様々な物があるが、私たちはアンクレットを選んだ。

 騎士であるライオネル様が身に付けた時に、一番邪魔になりにくそうな物だから。


 アンクレットにはそれぞれ二粒の宝石が付いている。

 ライオネル様の瞳の色に似ているサファイアと私の瞳の色に似ている琥珀。

 相手の瞳の色の石を選ぶ事が一般的だけど、同じ石を付けた方がよりお揃い感が増す気がしてそうした。


 ライオネル様からは更にサファイアのネックレスとピアス、指輪のセットも贈られた。

 明日からの夜会で付けられるデザインのものを。


 その後、一度タウンハウスに戻って馬に乗り換え、二人で王都の外れにある公園のようなところに連れてきてくれた。

 昨日陛下から穴場スポットを聞いたのだという。


 辺境伯領は国防の要ではあるけれど、陛下とそんな話をするなんて意外と気安い仲なのだろうか?


「うーん、気持ちいい!凄い解放感!」

「はは、そんなにか?」

「はい!最近は辺境領の自然に慣れていたから余計にそう思うのだと思います」

「なるほどな。俺もこの二日、陛下との話で疲れたから解放感があるのは分かる」


 ここへ来るまでの馬の二人乗りは密着感にやっぱりドキドキしたけれど、色々なところに連れてきてくれて嬉しい。ついつい気分も高揚してしまう。


 お茶とお菓子や軽食が入ったバスケットを広げ、軽く摘まんだ後にライオネル様は以前領主邸の近くの高台に行った時と同じようにブランケットに寝転がった。

 今日は天気が良いので、ライオネル様の幻想的な瞳が良く見えて思わず覗き込んでしまう。


「やっぱり綺麗……」

「マリアベルは妃教育をしていたから、王家の秘密にも精通しているのか?」

「どうでしょう?私がそうとは認識していなくても、妃教育を通して教えられたことの中に王家の秘密が含まれている可能性はあります。でも、これは王家の秘密だから口外しないようにと説明された話はありません。確か、秘匿すべき内容は正式に婚約者になってから、必要になった時に都度教えられる予定だったかと」

「そうか。しかし、王家の血を引く者の中にこういう瞳を持つ者がいるというのは教えられているのだな。公爵令嬢であるマリアベルが知っててもおかしくはないが、確か貴族の中でもあまり知られていない事だと思ったが」

「それは、教師から教わったわけではありません。子供の頃に王太子殿下の瞳が今までと違う色に見えたので、聞いてみたら教えてくれたのです」


 話の流れがいまいち読めないけれど、陛下に二日続けて呼び出されたくらいだし何か大切な話があるのだろう。

 いつもよりも静かな語り口で、なんだかライオネル様が少し緊張しているように感じる。


「マリアベル、今夜大切な話がある。陛下と面会した理由でもあるが、話しておく必要があるから聞いてくれ」

「分かりました」


 そして、いつ話を切り出されるのかと思っていたが、それはベッドに入るまでなかった。

 就寝時の寝室は完全に二人きりで使用人もいない。

 それほどに重要な話なのだろう。


 昨夜は同じベッドに入るのも緊張していたけれど、今日は大切な話を聞く方が大切なので同じベッドに入ることに抵抗はなかった。


 ライオネル様はベッドの上でヘッドボードに背をもたれ掛けさせたリラックスしているような状態で、ぽつりぽつりと話し出した。


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