第36話
「ん……」
日の光を感じて目が覚めた。
一瞬ここがどこか分からなかったが、タウンハウスだったと思い出す。
昨日も同じ事を思ったような気がする。
同時に、今日はライオネル様はいるのだろうかと思ったけれど、今日もいなかった。
今日はライオネル様が寝ていた方を向いている状態で目が覚めたので、確認するまでもなく、いない事が明白だ。
(やっぱり甘い朝っていうのは小説だけの世界なのだわ。……私たち、昨日想いが通じ合ったわよね?え?夢?あれは夢だったの?夢だったなんて嫌!)
もしかして、都合のいい夢だったのかも!?と思って、恐ろしくなってベッドの中をのたうち回っていると、バストイレに通じるドアが開く音がする。
ハッとして音がした方を見ると、そこにはライオネル様がいた。
下はトラウザーズを履いているけれど、上は裸にバスタオルを肩にかけているだけという姿で、髪はまだ乾ききっていない。
上半身だけとはいえ男性の裸を見慣れていないので、バッと上掛けに潜る。
目を瞑っても、一瞬しか見ていないはずのライオネル様の上裸が鮮明に脳裏に焼き付いて離れない。
(な、な、なんで裸!?すごいっ!すっごい引き締まって逞しい体だったわ。まだ濡れた髪が壮絶に色気を出していて、目に毒よ!)
朝からドキドキしている心臓を鎮めようと上掛けの中で目を瞑って固まっていると、ギシリとマットレスが音を立てた。
ライオネル様がベッドに腰かけたのだろう。
私の肩のあたりに手をついたのか、マットレスが少し押される感覚があった。
(な、なに?)と警戒すると、耳元でささやかれた。
「おはよう、マリアベル」
(!!!?うわぁぁぁぁ!?耳もとで!いつもにまして掠れて声の色気が凄い!朝だからなの!?耳がぁ!!)
「なんで隠れているんだ?―――マリアベル?」
一層ぎゅうっと体に力を入れて、あふれ出しそうな何かを必死に留める。
そうして固まっていたけれど、ライオネル様が不思議そうに名前を呼ぶのでこれ以上無視はできない。
上掛けを目の下までそっと下げるとライオネル様と目が合った。
(なんか、ライオネル様の視線が甘い気がするわ)
落ち着かなくて視線を彷徨わせると、ライオネルの体が視界に入る。
やっぱり上半身は裸にバスタオルを肩にかけただけの状態だった。
「な、な、なんでそんな!どうして服を着ていないのですか?」
「ん?習慣で朝の鍛錬をして汗をかいたから湯あみをしてきた」
「そういうことではなく。服を、早く服を着てください」
「あぁ。すぐに見飽きるようになると思うが、朝の鍛錬と湯あみは習慣になっているんだ。早く見慣れてくれ」
「な!?慣れません!」
ライオネル様はこちらをじっと見つめていたかと思ったら、目を細めておでこにキスをされた。
たまらずまた上掛けを頭の上まで被せて隠れると、「ははっ」と笑い声が聞こえてくる。
上掛け越しに頭をわしわし撫でられて、「準備して朝食にしよう。先に行ってる」と言って居室へ移動していった。
朝から心臓への負担が大きすぎた私は、しばらく上掛けの中で放心状態になり動けなかった。
(でも、夢じゃなかった)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます