第31話
旅装を解いてサロンでお茶をいただいているとライオネル様もやってきた。
向かいのソファに座ると、アダムへ寝室の件を指示している。
「アダム。寝室をもう一部屋用意してくれ」
「何故でしょうか?」
「何故って、当たり前だろう。まだ結婚前だぞ」
「婚約はされていらっしゃいますよね。こちらの屋敷はあまり部屋数に余裕がございませんので……」
今回この屋敷に滞在するのは、ライオネル様、私、フォルス、フレア、御者兼護衛騎士二名の計六名。
昔からあまり王都に来る事がなかったので、ハリストン家は元々王都にタウンハウスを持っていなかったそうだ。
数代前の王妹が当時の辺境伯に嫁いで来る際、王妹が王都に来やすいようにと王からタウンハウスを与えられた。
当時の王は当然立派な屋敷を用意しようとしたが、辺境伯は屋敷を賜るのを固辞。当時はそう簡単に領地を離れられなかったし、道中も安全とは言えない情勢だったそうだ。
しかし、王妹を可愛がっていた王から何度も言われて仕方なく、この小さなタウンハウスならと賜ったという経緯があるらしい。
そのため、この屋敷は滅多に来ない主人一家とその使用人しか泊まらない想定のため、寝室として使える部屋は使用人用を含めてもごく僅かしかないという。
主用の寝室と主の子供またはゲスト用として二部屋と、使用人用の空き部屋が二部屋。寝室として使えるのは合計五部屋しかない。しかも、その後部屋はどの部屋もベッドは一台ずつしか置かれていない。
ライオネル様と私が別々に寝るのなら、フォルス、フレア、騎士二名の誰かは二人で一つのベッドを使わなければいけないことになる。
フレアだけ女性だから、フレアも一人部屋になるだろう。
そうなると、フォルスと騎士二名の男性三人で二部屋となる。
フォルスは細身だけど、騎士は二人とも体格が良いので、どの組み合わせにしても使用人用の狭いベッドで一緒に寝るのは無理がある。
それならと「私とフレアがひとつのベッドを使いましょうか?主寝室をフレアにも使わせていただけるのなら、女性二人で寝るには充分余裕がありますし」と提案してみる。
しかし、ライオネル様が口を開く前に「使用人と主が同じベッドを使うなんてあり得ません!それなら床で寝ます」とフレアに全否定されてしまった。
「だからと言って、男性は皆既婚とはいえ、フレアを男性と同じベッドで寝かせられないし、フォルスや護衛騎士が二人で一つのベッドを使うのは、流石に窮屈すぎますよね?でもライオネル様と同じ寝室というのもあり得ないし……うーん……どうしたら……」
そんなことを言っていると、ライオネル様の機嫌がなんだか悪くなっている事に気が付いた。
アダムが怒られかねないので部屋割の問題を早く解決した方が良さそうだ。
「あ!そうよ。今からでも宿が取れないかしら?」
「各地から貴族が集まる今、王都の宿は空いていないだろうな。そうなると、やっぱりこの屋敷の中で解決するしかない。部屋が空いていないなら今のままの割り振りしかないだろう。それが一番無難だ」
ライオネル様が淡々と話す。
「えっ!?でも、それだと――」
「マリアベルは俺と寝るのがそんなにあり得ない事なのか?」
「……え?」
「アダム。今のままで良い。煩わせた」
「いえ」
自分の采配は間違っていなかったでしょう?とばかりににっこり笑顔を浮かべるアダム。
「え?え!?そんな……!」
そうして、何故か部屋割りは変更なしという事になってしまった。
(え!?結婚前なのに良いのかしら?ってそれよりもどうしましょう!?)
私は就寝時を考えるとソワソワと落ち着かない気分になった。
私一人だけが慌てていて、他の人は皆各々の仕事に戻っていく。
ライオネル様は話は終わったとばかりに、長い足を組んで優雅にお茶を飲んでいる。
自分ばかりあわあわしているのに、ライオネル様からは大人の余裕を感じる。
ライオネル様が少女趣味ではないとわかった今、今度はライオネル様に釣り合うような大人の魅力溢れる女性への憧れが強くなった。
(こういう時に年齢差や経験値に差を感じるのよね)
そんなことを気にして、少し気が落ちる。
「今日はひとまず休んで、明日に王都の街を見て回ろう」と、これからの予定を話していると、王宮からライオネル様宛に使者がやってきた。
王宮に呼ばれたらしく「今夜は遅くなるかもしれないから、待たずに先に休んでいて」と言って出かけて行った。
結局、私のいつもの就寝時間になってもライオネル様は帰ってこなかった。
帰ってこない事に寂しさを感じつつも、どこかホッとしている自分もいる。
(なんだかあわあわして損した気分だわ。でも、帰ってきたらこのベッドを使うのよね?無駄な抵抗かもしれないけれど……うん。これで少しはマシなはずだわ)
ベッドから落ちそうな程端へ移動して眠りにつく。
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