第30話

 タウンハウスはトマスの弟一家が管理を任されていた。

 トマスの家系は代々ハリストン辺境伯家に仕える使用人一家らしい。


 タウンハウスにはほとんど主が来ないため、たくさんの使用人は不要ということもあるが、カントリーハウス同様に、いやそれ以上にタウンハウスの使用人は最低限だった。


 いるのはタウンハウスの家令であるトマスの弟アダムとその妻、息子。それに通いの使用人三名だけだという。

 その通いの使用人も毎日来るわけではない。

 二人のメイドは週に三日ずつ交代で、庭師は不定期で来るだけらしい。


「旦那様が五年ぶりに!五年ぶりに来られるだけでなく!なんと婚約者をお連れになるというではありませんか!それはもうご到着を今か今かと楽しみにお待ち申し上げておりました」


 五年ぶりを二度も強調したアダムは、とても嬉しそうに話をしていた。

 五年ぶりに主がやってくる上、その婚約者も一緒なので、使用人一同張り切って準備をしたそうだ。


(歓迎されているというのはやっぱり嬉しいことだわ。ライオネル様は目を逸らしていらっしゃるけど)


 アダムの妻が私の部屋へと案内してくれる。

 外観同様に可愛らしい内装だった。


 淡いクリーム色に白と緑の小花柄の壁紙で、家具も淡い色合いで統一されている。

 女性ゲスト用の部屋というのが一目瞭然。

 ソファとテーブルのセットや丸テーブルとイスのセット、棚などが置いてあって、奥にドアが二つあるので寝室は別なのだろう。


 奥のドアの一つを開けてみると、やはり寝室だった。

 大きな天蓋付きのベッドが置いてあり、両サイドにサイドテーブルが置かれたシンプルな部屋だった。

 居間の雰囲気と違って落ち着いた色味の寝室。

 さらに奥の方にもドアが二つあるので、バストイレと衣裳部屋だろう。


(居室の方にももう一つドアがあったけど、あっちは侍女用の部屋?ということは、ここがお風呂か衣装部屋?)


 そう思いながら、寝室の奥にあるドアの一つを開けてみる。


「―――えっ??」


 フォルスと何やら話していただろうライオネル様と目が合った。


「………………」

「………………」


 状況が呑み込めず、お互いにきょとんと無言で見つめ合う。

 時が止まってしまったけど、先に復活したのはライオネル様だった。


「まさか」と言ってフォルスの方を見るライオネル様。


 フォルスは「そのようですね」と苦笑いしていた。


「??」

「ここは俺の居室だ。そして今マリアベルが開けているドアは俺の寝室に繋がっている」

「……えっ?あっ!?し、失礼いたしました」


 つまり、お互いの居室の間に寝室がひとつ。

 この国の貴族の屋敷によくある夫婦の部屋と同じ構造をしているという事。


 知らなかったとはいえ、ライオネル様の居室に繋がるドアをノックもせずにいきなり開け放ってしまった事に気付いて、勢いよくドアを閉めた。


 すると、すぐに閉めたばかりのドアが開く。


 少し気まずそうに視線を逸らしながら「俺の寝室は別に用意させるからここはマリアベルが使うと良い」と言ってまたドアが閉められた。


 もしも気が付かずに夜を迎えていたと思うと……顔から火が出そうだった。


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