第23話
休憩から戻ってこないロバートとフォルスを探しに行けば、マリアベルがロバートと木陰で何かやっていた。
ロバートが木を背に、マリアベルが追い詰めているような状況だった。
「何が内緒なんだ?」
「っ!?ラ、ライオネル様」
普通ではない状況と、気になる会話が聞こえてきて声を掛ければ、マリアベルは肩を大きく揺らして驚く。
「マリアベルが騎士団の方にいるのは珍しいな」
「え、えぇ。ちょっと用事がありまして。ほほほ」
「で、何が内緒なんだ?ん?」
笑ってごまかそうとしているマリアベルを今度は俺が木に追い詰め、腕で囲う。
何かやましいことでもあるのか、視線を彷徨わせている。
追い詰められてあうあうと涙目になっている姿も可愛らしい。
しかし、どんなに可愛くてもロバートと何を内緒話をしていたのか、追及の手を緩めるつもりはない。
「俺には言えない事を話していたのか?ロバートと、ふたりで、こんな木の陰で?」
二人でと強調して言えば、カッと目を見開くマリアベル。
「やましい事をしていたわけでは!フォルスもフレアもいますし!」
「じゃあ何をしていた?」
「そ、それは……」
また忙しなく視線を彷徨わせはじめた。
視線を合わせるように、頬を包み込むようにして顔を正面に向けさせてしっかり目を合わせると、マリアベルは頬を染める。
本気で彼女の事を訝しんでいるわけではない。
ロバートとふたりでこそこそしていたのが気にくわないだけだ。
「ん?」
「……それは、その…………」
「なんだ?」
「私がマナー違反をしようとしてしまったんです!ごめんなさいいぃぃぃ……!」
そう言うと、マリアベルは俺の腕の囲いを潜り抜けて脱兎のごとく逃げ出してしまった。
(は?マナー違反??)
予想もしない言葉と逃げ足の速さに、ポカンと走り去る後ろ姿をただ目で追ってしまった。
側に控えていたフレアもいきなり走り出したマリアベルを素早く追走する。
今は関係ないのに、流石だと感心してしまう。
マリアベルは、食事や挨拶などの所作は流石としか言いようがない位に綺麗で、淑女然とした容貌をしているのに。
実は毎日広い庭を結構な時間散歩に費やしていたり、走るのが速かったり、よくいる淑やかな令嬢とは違う一面は面白い。
何を話していたかはロバートに聞けばいいだろう。
執務室に戻ると、先に戻っていたロバートがフォルスから茶を貰うところだった。
「で、何を話していたんだ?」
「あれ?マリアベル嬢から聞き出せたんじゃないの?」
「逃げられた」
「へ?」
「脱兎のごとく走って逃げて行ったよ」
「へぇ?やっぱり面白いお嬢さんなんだね。さっきも草陰からいきなりガサって飛び出してきたと思ったら木の陰に引っ張られるから、情熱的!と思ってびっくりしちゃった――って、そんな顔するなって。冗談だろ」
思わず目を眇めて見てしまっていたらしい。
「それで?何を話していた?」
「んー、内緒にしてってお願いされたから言えない」
「…………」
「まぁ、言っても良いんだけどね。ライの事で知りたいことがあったみたいで。でも、ライに直接聞いたらいいよってアドバイスしておいたから、そのうち聞かれるんじゃないかな?」
(俺について聞きたいこと?知りたいことがあるなら直接聞けばいいものを、何故俺ではなくロバートなんだ?しかも内緒にって……)
心の中がモヤモヤとして釈然としない。
夕食の席でマリアベルが何か聞いてくるかと待ってみたが、特に何もなく夕食もサロンでの食後のお茶の時間も終わった。
成人祝いをした日以降、目が合うとサッと逸らされることが増えた気がする。
喜んでくれていたと思うが、もしや嫌われるようなことを何かしてしまったのだろうか。
ここに来てからの彼女は数か月前に家族を亡くしたと思えない位に、悲しみを感じさせない様子で明るく振舞っていた。
しかし、泣きながら自分の気持ちを吐露する姿に思わず抱きしめてしまったが、それがダメだったのだろうか。
考えれば考えるほど心の中がモヤモヤしてしまう。
――――結局、一晩経ってもモヤモヤは晴れなかった。
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