第22話

 恋心を実感した私には今ひとつの悩みができた。

 それは、ライオネル様に子供扱いされているんじゃないか問題だ。


 少し前から何かあるとライオネル様に頭を撫でられることが増えていた。

 成人を祝ってくれた時に私が泣いたときも何度も頭を撫でて慰めてくれた。


 頭を撫でられて、嬉しくないわけではない。

 けれど、頭を撫でるという行為は、婚約者や夫婦相手に対してするものなのだろうか?

 父が母の頭を撫でているところを見た記憶はないし、王太子殿下にも頭を撫でられたことはない。

 王太子殿下はエスコートやダンス以外で私に触れてくることもほとんどなかったけど。


 一般的な事は良く分からないけれど、私は弟が小さなときは頭を良く撫でていたし、私自身小さなときは両親からよく頭を撫でられた記憶がある。

 婚約者候補に選ばれて直ぐのころは、国王夫妻からも何度か頭を撫でてもらったことがある。

 だけど、そのどれもいつの間にかなくなっていた。


 だから、どうしても頭を撫でるのは子供扱いされているような気がしてならない。


 子供扱いされるという事は、ライオネル様に女性として意識されていないのではないか。


 あの成人を祝ってくれた日以降、ライオネル様は以前にも増してよく私の頭を撫でるようになった。

 ダイニングの席について待っていると、後からやってきたライオネル様が私の横を通り際に頭を撫でてから自分の席についたり。

 日常的にするりと撫でていく。


 あの日大泣きしてしまったから、本格的に子供のように思われたのではないだろうか……。


「はぁ……」

「どうされました?」

「どうしたら大人の女性になれるのかしら?」

「はい?お嬢様はもう成人していますよね?この間も祝ってもらえたじゃないですか。とても良い会でしたね」

「うん。凄く良い会で感謝してる。ってそうじゃなくて、ラ、ラ……さまにお……うにはどうすればいいかって」


 急に恥ずかしくなって声が小さくなってしまう。

 しかし、フレアの耳にはしっかり届いていたようだ。


「旦那様に大人の女性としてみてもらうには、ですか。う~ん、とりあえず、大人の女性はきっとベッドの上でゴロゴロしたり、手足をバタバタしたりはしませんね」


 今もベッドの上でゴロゴロしていた私は、即座にベッドから降りる。


「まぁ、男性によって好みは違いますからね。その男性の好みを知るのが早いと思いますけど……でも、お嬢様はそのままが良いと思いますよ」


 子供扱いされていても、大人の女性と認識されていなくても、王命による結婚なのできっとこのまま結婚はできる。

 だけど、恋心を認めた今はライオネル様にも私の事を好きになってもらいたいという欲が芽生えてしまった。


 その男性の好みを知るのが早いとフレアが言っていた。

 それならば、聞いてみるのが早いだろう。

 けれど本人に聞く勇気が出ない。


 どうしようかと考えていると、ロバート様に聞いてみようと思いついた。

 二人はとても気安い雰囲気の間柄のように見えるし、きっと何か知っているだろう。



 午後、騎士団施設の近くでロバート様を待ち伏せしてみる。

 すると、鼻歌を歌いながらご機嫌に歩いているロバート様とその一歩後ろを歩くフォルスを発見。

 ライオネル様は一緒ではないことを確認し、ロバート様を木の陰に引っ張ってきた。


「え?ライに彼女がいたことがあるか?ですか?」

「そう。ライオネル様ってどんな女性とお付き合いされていたのかしら?ロバート様は親し気だし知っていそうだと思ったのだけど」

「あ~……えーっと?それはつまり、どんな女性がタイプか知りたいってことでいいですか?」

「なっなんでわかっ……!―――そっ、そういうことになるかしら?」

「ふはっはははっ!あははははは!あ、や、すいません。睨まないで、上目遣いで睨まれても可愛いだけです」


 早速ロバート様を捕まえたのだが、徐にライオネル様の好みのタイプを教えてと聞くのが急に恥ずかしくなった。

 素直に言えなくて中途半端に誤魔化して澄ましてみせたら笑われてしまった。

 これでも真剣に聞いているのに。


「知ってるの?知らないの?どっち!?」

「知っていると言えば知っているし、知らないと言えば知らないかな~なんて。ねぇ?フォルス?」


 そこで、ロバートが今まで一歩引いて控えていたフォルスに話を振る。


「どういうこと?どっちなの?フォルスは知っている?」

「私は副官とは名ばかりの従者ですので。私の口から申し上げることはございません」


 フォルスは、辺境伯家の使用人一家の長男で公私に渡っての従者を務めている。辺境伯騎士団ではライオネル様の副官を務めているというが、使用人の側面が強い。だから、従者として主人の事を簡単にしゃべらないのは正しい。

 でも……。

 ロバート様にもう一度視線を戻す。


「いやぁ、あの、こういうことは他人が言うべきじゃないといいますか、ね。ライが言わない事を俺が勝手に喋らない方が良いかな~なんて」


 ロバートは、(だって、遊んでた女が過去に何人かいたことは知っているけどちゃんと付き合った女はいなかったはずだよ~なんて……この純真そうなお嬢様に言えないし、言ったら俺がライに殺されるわ)と、口をつぐむ。


「そう、そうよね……本人が言わない事を勝手に聞き出すなんていけない事ね。マナー違反だわ。私ったらなんてことをしようとしていたのかしら」

「え?や、そんな重たく受け止める事でもないけれど」

「もう聞かないわ。けれど、このことは内緒にしてくれる?」


 その時、後方からがさりと音がする。

 嫌な予感がして振り返ると、ライオネル様が立っていた。


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