第21話
「フレア……私は、今度はどこに行けば良いのかしら…………」
「はい?」
「この結婚は王命だからめったな事では覆らないけれど、治らない病気を抱えていると分かれば白紙に戻る可能性があるわ。そうしたらここにはいられないもの……」
――フレアはマリアベルの深刻そうな顔を不思議そうに見た。そして、(え?お嬢様ったら、なんでそんな飛躍した考えに!?あ、十歳の頃から王太子殿下の婚約者候補という立場でいらっしゃったから、思っている以上に色恋に疎いってこと!?)と驚く。
不治の病だと聞き、今後のことを想像する。
すると、ずっしりと重い何かが胸に詰まってしまったような気がした。
父や母、弟が生きていたころとはまた違うけれど、確かに温かな世界がここにはある。
ここに来てからは随分と心が軽くなったのに、病を抱えているのなら温かなこの場所にはいてはいけないだろう。
私がどんなにここにいたいと願っても、その願いはきっと叶わない。
考えれば考えるほど酷く悲しくなって俯いてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってください。分かりました。ちゃんとご説明しますから、落ち着いてください。悲観することではありませんから」
「説明?」
「はい。不治の病とは、恋の病にございます」
「こいの、やまい?」
「恋愛の恋、色恋の恋です。胸が苦しくなるというのは、恋煩いですね」
「―――………………えぇっ!?」
フレアの指摘に、思わず立ち上がって驚いてしまう。
まさか自分がそんな恋をするなんて。
「旦那様の側にいるときや旦那様の事を考える時に胸のあたりが苦しくなるのは、それだけ意識しているからでしょう。旦那様を思うと切なくなったりドキドキしたりするのでは?」
確かに、訳もなく切ない気分になったりドキドキして落ち着かない気分になる。
「わっ、わた、わたしっ、ど、どど、どうしたら!?」
「どうもしなくていいのでは?あと半年もすればおふたりは夫婦になるのですから」
落ち着き払ったフレアの声色で、浮ついた心も少し落ち着いた。
「そっか、そうよね。ふうふ、になる、のよね」
(これが恋……。そういえば小説にも同じような状態になっている主人公がいた気がするわ)
これが恋なのだと自覚したら、そうとしか思えなくなってしまった。
一層落ち着かない気分になって、何かしなければと焦る気持ちにもなるけれど、全く嫌な気分ではない。
そして、はっと気が付いた。
私、好きな人と結婚出来るんだ。
もしかして、夢が叶う?
両親のように想い合っての結婚ではないけれど、でも、好きな人と結婚したいという幼い頃の夢は叶う事になる。
そう思うととても嬉しかった。
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