第18話

 一緒に街にお出かけしてから、格段に二人の距離は縮まったように感じる。

 普段からお互いに名前で呼び合うようになったし、ライオネル様は私の前でもよく笑顔を見せてくれるようになった。


(今日も笑顔から色気が漏れているわ)


 ライオネル様の変化は私にとって、とても嬉しい変化だった。


(笑顔を見せてもらえると、受け入れてくれていると感じて安心できるからかしら?)


 それに、自然豊かな場所が良いのか、少し前から頻繁に起こっていた体調不良も辺境領に来てからは気にならなくなった。


 辺境伯領でも体調を崩したら迷惑をかけてしまう。

 体調不良が続くようなら、領主の妻としての役目を果たせない可能性もある。

 王命として結婚せざるを得ないのに、跡継ぎを生むという役目も果たせない妻を辺境伯様が背負わなければいけなくなるのでは……と憂慮していたのだ。

 もしもそうなれば、付いてきてくれたフレアにも肩身の狭い思いをさせてしまうかもしれない。


 けれど、今は以前のように体が軽い感じがしている。

 王宮の侍医に見てもらっても体調不良の原因は分らなかったけど、この感じならきっともう大丈夫な気がする。


(まだ気が早いけれど……)



 ≡≡≡≡



 辺境領へ来て早三か月。結婚式まであと半年を切った。

 いよいよ本格的に結婚式の準備に取りかかる頃合い。


 結婚式が半年後に迫った今日、結婚式に向けて仕立て屋とドレスの採寸やデザインの相談をする。


 ハリストン家が懇意にしている仕立て屋は、働いている人数が多くないそうだ。

 ドレスは余裕を持って依頼した方が良いということで、まずはドレスから取りかかることに。


 辺境伯領へ来てすぐは、厭われているのではと不安に思うこともあった。

 実は、辺境伯領へ来て少ししてから、私はいつになったら結婚式の準備を開始するのかとそわそわしていた。

 王族の結婚の場合は、一年も前から取りかかり始める。

 だけど、辺境伯様や使用人は一切、結婚式の話題を出さなかった。

 王命といえど、婚約者として認めてもらえていないからかと少し悩んでいた。

 結局フレアが侍女長に「こちらでは半年前から少しずつ準備をするのが一般的だそうです」と聞いてきてくれて、安心できた。


 ライオネル様との関係も良くなり、いつの間にか不安に思うことがなくなって、ドレス選びも結婚式の準備も楽しく感じる位だった。



 ウエディングドレスのための採寸とデザイン選びを終え、今は生地選びをしている。

 領主邸の中でも広い応接室にはたくさんの生地が広げられている。

 それを眺めてあれこれ言うのは私だけではない。

 むしろ、私よりも周りのほうがうるさい位だ。


 私の他にはフレアもいるし、侍女長のハンナもいる。

 フォルスの妻で領主邸で侍女をしているユリアと、同じく領主邸で侍女をしているトマスとハンナの娘であるエマもいる。


「マリアベル様。これはどうですか?」

「マリアベル様は琥珀の瞳だから、何でも似合いそう!」

「あっ、これも素敵」


 ハンナは優しく見守っているが、フレアとユリアとエマは我が事のようにキャッキャと楽しそうにしている。

 女性ばかりで賑やかにドレスの生地選びが進められていた。


 ハリストン辺境伯邸では使用人と主人との距離が近い。

 主従としての一定の線引きはあるものの、ライオネル様は使用人たちを家族のように思っていることが伝わってくる。

 そのお陰で、私も使用人たちとすっかり打ち解けた。

 堅苦しいのは元来苦手なので、気安い関係を築けて嬉しい。


 ドレスに使う生地は、光沢の美しい絹地とふわりと薄いオーガンジーを選んだ。

 決めたデザインがシルエット自体はシンプルだけれど、総刺繍でスカート部分は薄いオーガーンジーを重ねるデザインにしたからだ。


 刺繍の範囲が広く、出来上がりは結婚式ギリギリになってしまうかもしれないと言っていたが、用意されたデザインの中から選んだものだし大丈夫だろう。

 素敵なドレスになりそうで、結婚式が待ち遠しく感じる。


 とりあえず二週間後にシルエットやサイズ確認のため、一回目の仮縫いが行われる予定になっている。

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