第12話

 ロバートから話を聞いた俺は、即座に騎士二人にある任務を言い渡した。


 辺境伯騎士団の中でもきつい内容の任務で、とても不人気な仕事をさせることを罰とした。


 国境に聳える山の山頂付近にある見張り小屋勤務だ。

 定期的に険しい山を登り降りしなければならない上に、山頂付近は常に雪に覆われているような厳しい環境だから、騎士達には不人気の仕事だった。


 本当は騎士団を辞めさせたい位の気持ちではあったが、辺境では騎士の人員確保は大切だし、そもそもの原因は俺にもあった。

 俺は婚約したこと、結婚が決まっていることを騎士たちに報告していなかった。


 報告していなかった理由は特にない。

 やましい事がある訳ではなく、ただ単に改めて騎士たちに言うのが照れ臭く感じただけだ。

 それに、こういうのはロバートやフォルスの口から伝達されて周知されるものだと思っていた。


(本人が言う事なのか?婚期を逃した独身も多い騎士達に、言いづらくないか?)


 結婚したくても田舎で相手がいないという理由で、この辺境伯騎士団には独身者も多い。

 恋人ができたり結婚が決まった騎士は、やっかみという名の手痛い祝福を受けていると聞いたことがあった。

 だから、言いにくいかったのもある。


 その結果、ライオネルの結婚話を知らない騎士ばかりだ。


 今回は、自分達で美味しい所を頂いてしまおうと報告義務を怠った事への罰だ。

 その相手がスワロセル嬢だというのは許せないが、断じて公私混同ではない。


 俺が辺境伯を継ぐ前はたまに騎士目当てに町娘が入り込むことがあったが、それも警備を強化したためになくなっている。

 現在、入り込む娘がいたら警備を掻い潜って侵入したことになるのだから、即座に拘束して報告する義務があるのに、それを怠ったことになる。


 第一、普通の令嬢が強化された門の警備を搔い潜れるわけがないのだ。

 もしも搔い潜って潜入したのだとしたら、騎士の怠慢か相当な手練れだと考えられる。

 手練れならば、一介の騎士があわよくばと下心丸出しで近づけば、手玉に取られてしまうのは想像に難くない。

 本物の敵を気づかずに引き入れてしまったら、この辺境伯領ひいては国にまで影響しかねない。


 少し考えれば、見慣れない女性がいたら領主邸の関係者や客だとわかるはず。

 簡素とはいえ、明らかに使用人や平民階級とは違う服装をしているのだし。

 例え、平民の服を着ていたとしてもマリアベルの髪の長さや綺麗さを見れば平民の女性ではないことは明らかだ。


 自分の知らない客人が訓練場近くにいたなら、ロバートや俺に確認をするのが先決。それを嬉々として話しかけていたとは……。


「それにしても、まさか訓練場を見ているとはな……」

「それさぁ、ライがもっと構ってあげていればこんなことにはならなかったんじゃない?」

「どういうことだ?関係ないだろ」

「暇を持て余していたんじゃないの?それで、ウロウロして訓練場に行きついたってこと」

「敷地内を出なければ自由にしていいと許可は出していた。単に散策していたのだと思うが」

「散策好きみたいだからその可能性もあるけど。でも、畑まで行ってヘンリーとも仲良く話しているんでしょ?構ってくれないライより別の騎士やヘンリーが良いって言われたらどうするの」

「…………」

「って、それは冗談だけど。顔が怖いよ!―――でも、マリアベル嬢もそろそろ退屈するころだと思うよ。一回どこかに出かけて来たらどう?一日くらい俺に任せて」


 たしかに、彼女がここへ来てから一か月以上経つ。そろそろどこかへ出かけても良いかもしれない。


 最初はどこへ連れて行こうか。どこへ連れて行ったら喜んでくれるだろうか。


「あ、ライが婚約して婚約者が領主邸に滞在していること、騎士団の皆には俺から言っておくから。ライはマリアベル嬢に謝りに行きなよ」


 そういってロバートは執務室を出て行った。


(もっと早く周知してくれていれば……)


 何も悪くないロバートの事を少し恨めしく思ってしまった。


 ≡≡≡


 ライオネルとロバートが話しているころ、マリアベルはフレアからたっぷりお説教されていた―――



「だからあれほどおひとりでは行動されないように注意したではありませんか!」

「はい。私が勝手に行動したばかりに」

「無事だったから良かったものの、何かあったらどうするのです。結局騎士団にも迷惑をかけて!」

「はい。それは本当に反省しています」

「もぉっ。しばらくは敷地内でも一人で行動するのは禁止ですよ?」

「はい、承知しています。ごめんなさい」


 こんな時ばかりは主従関係というよりは、親子や姉妹のような関係になるのであった。


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