第6話

 気さくにスワロセル嬢と会話するロバートを眺め、嘆息する。

 この男は本当に人の心に入り込むのが上手い。

 スワロセル嬢も早々に楽しそうに会話していた。

 見習いたいところだが、俺には即座に懐に入るなんて永遠に無理だろう。



「しかし、驚いたな」

「何がだ?」

「あ、フォルス。茶を入れてくれないか」

「かしこまりました」


 二人の顔合わせを終えて、騎士団施設にある執務室に戻ってくると応接セットのソファに座ってロバートが感嘆したように言う。


「マリアベル嬢だよ。婚約者候補だっただけあって最初はさすが清廉で淑女然としていると思ったけど、話してみたら全く気取ってなくて良い子そうなのが伝わってきた。元婚約者候補っていうから鼻持ちならない令嬢だったどうしようかと心配していたんだけど、余計な心配だったかもな」


 確かに、第一印象は美しい笑みを貼り付けていたようだし、都会の淑女然としたいかにも貴族令嬢という印象だった。

 しかし、昨夜は入室の挨拶そっちのけで謝ってきたし、案外表情も豊かで印象が変わった。


 最初に晩餐をすっぽかすという失態を犯して淑女の仮面を被るのをやめたのか、それともこちらがあまり貴族らしくないからだろうか?


「可愛くてきれいで気さくないい子なんて、最高じゃないか!ぜっっったいに逃がすなよ!?」

「お前に言われるまでもない」

「まぁ、お前ならきっと大丈夫だと思うけどさ。ただ、どんなにライが頑張ったとしても、この田舎が嫌だと言われないかが心配だ」

「……お前の二の舞にはならないようにしないとな」

「うるせぇよ!人の傷口抉りやがって」


 ロバートには子供の頃からの婚約者がいた。

 もうそろそろ結婚という歳頃になった時に、その婚約者をこの辺境領へ招待した。

 すると、こんな寒い田舎では暮らせないとすぐに帰られて、少ししてから婚約破棄の申し入れがあったのだ。



 俺とスワロセル嬢の結婚は王命だ。

 余程の事がない限り、撤回されることはない。


 どうしてもこの辺境が嫌だと言って彼女だけ王都のタウンハウスで暮らすことも可能だが、この結婚に至った理由が理由だけに、結婚後も基本はこの辺境で暮らしていくことになる。


 ずっと王都で暮らしていた令嬢には退屈な場所かもしれないが、できればこの自然豊かな土地を気に入ってくれることを願っている。

 時間ができたらきれいな景色を見に出かけるのも悪くないだろう。


「お待たせいたしました」


 フォルスがロバートに紅茶を出す。

 いつもはない小さな茶菓子が添えられているのは、苦い過去を思い出したロバートへの思いやりだろうか。

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