第24話「炎獄のザンフィール」
「その呼び名はあんま好きじゃねぇんだけどな。昔を思い出しちまうからよぉ」
炎獄のザンフィールと呼ばれた彼は、ゆっくりとヴァレリーさんに近付いて来た。
年齢はあたしと同じくらいだろうか。
灼熱のような赤い髪に、紅蓮の瞳。
服装も赤を基調とした軍服らしきものを
しかし、あたしが一番気になったのは彼の首回りである。
PRISМによく似た灰色の首輪をしているのだ。
これじゃあまるで誰かの飼い犬――いえ、何かの番犬のようじゃない。
「……お久しぶりですわね、ザンフィール。1年ぶりくらいでしょうか」
ヴァレリーさんは、少し震えたような声色で彼に話し掛けていた。
「あぁ、魔ノ森での任務以来だよなぁ」
ザンフィールは何が可笑しいのか、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ヴァレリーさんの前に立ち塞がっていた。
「あなたが森を焼き払ってしまった結果、瘴気が人間の居住区まで流れ込み、人が住めなくなってしまいましたわ」
「ケッ、知るかよそんな事。オレ様はババアに言われたとおり、モンスターを狩っただけだ」
……この二人、一体何の話をしているの?
魔ノ森?
任務?
それにババアって……
「グールを倒してくれた事には感謝いたします。ですが、わたくし達はこの先を急いでいますの。そこを通してくださらない?」
ヴァレリーさんの声は下手に頼んでいるようで、有無を言わさぬ迫力があった。
「そう言うなよ。久しぶりに再会したんだ、ちったぁ楽しませろや」
ザンフィールはそう言いながら、手の平から炎を生み出していた。
「ヴァリアンター同士の私闘は禁じられている事を、あなたもご存知でしょう?」
「もちろん知ってるさ。だから、これは私闘じゃない。何かの間違いで偶然にオレ様の魔法がアンタに当たっちまうってだけでなぁ!」
ザンフィールは手にしていた炎をあろう事か、ヴァレリーさんに投げつけて来た。
「『
ヴァレリーさんが咄嗟に放った反重力魔法で、ザンフィールの炎は彼に向かって跳ね返っていった。
「やるじゃねぇか!」
ザンフィールは反射された魔法を自身の右手に宿した炎で相殺させていた。
「いいねえ、そう来なくちゃよぉ!! 『
続けてザンフィールは大きな火の玉をヴァレリーさんに連続で打ち放っていた。
あれ、あたしの知ってる『ヴェッファキューュ』の大きさじゃないんですけど……!!
島で見た『ヴェッファキューュ』は人の顔の大きさくらいだったのに、ザンフィールのそれは等身大に近い大きさだ。
「『
ヴァレリーさんは前方に展開させた超重力空間に火の玉を吸わせると、空間に飲み込まれた火の玉は次々と燃え尽きて消失していった。
「面白れぇ!! さすがはスペリオル第5位だなぁ!!」
じょ、冗談じゃないわよ……!
これがスペリオル同士の戦いだというの?!
魔法が使えないあたしじゃ、天地がひっくり返ったって勝ち目なんかないじゃないの……!!
「けど、こいつぁどうかな?! 『
ザンフィールの放った魔法はヴァレリーさんを覆うように、ドーム状の炎を発生させていた。
「ぐ、うぅぅぅ……!!」
ヴァレリーさんは自身の周囲に超重力を発生させて炎を吸収させているものの、その圧倒的な熱量の前に押されていた。
火魔法というのは基礎魔法7つ内の一つで、本来なら特殊魔法の重力魔法に対抗出来るような魔法ではない。
にもかかわらず、ザンフィールのそれはヴァレリーさんを押すほどの火力を有している。
これがスペリオル第3位、炎獄の実力……!!
「うぅぅぅぅ……きゃぁぁぁっっ!!!」
ついにヴァレリーさんは超重力はザンフィールの強力な熱魔法により突破され、その炎は彼女を焼き尽くしていく。
「ヴァレリーさん!!」
あたしは彼女に駆け寄ると、ヴァレリーさんはその場に片膝を付いて荒い息をしていた。
「そ、そんな……ひどい火傷……」
ヴァレリーさんの左腕が見るも無残に焼け
「……ちょっと、アンタ!!」
あたしはヴァレリーさんをかばうように、彼女の前に出た。
「お、おやめなさい、レティさん……あなたの敵う相手ではありませんわ……」
ヴァレリーさんの言うとおり、あたしじゃまず勝てない相手よね。
でも、大切な人が目の前で傷つけられているのに、じっとしている事なんてあたしには出来ないっ!!
「あぁ? なんだ、てめーは」
ザンフィールはつまらなそうな表情を浮かべて、あたしを睨んでいた。
「どうしてこんなひどい事をするのよっ?!」
「っるせえな。雑魚モンスターばかり狩らされてこっちは死ぬほど退屈してんだよ。それとも何か、『ゼロ・グラビティ』の代わりにお前がオレ様の相手してくれんのか、桃色ぉ?」
ザンフィールは口の端を歪めながら、手に炎を生み出していた。
あたしはマジックワンドを手にして、魔法を唱えるフリをする。
「良い度胸してんじゃねえか、桃色ぉ!!」
ザンフィールは手にしていた炎をあたしに投げつけて来た。
あたしは体を捻って炎をかわすと、魔法を唱えた。
「『
…………し~ん。
湿地帯に静寂が木霊する。
「……な、なんだぁ?」
あたしはザンフィールが呆けている間に、姿勢を低くしてヤツへと肉薄する。
「ローズ流抜刀術、『
逆手抜刀、下から上への弧を描く斬り上げ一閃。
「ぬおっ?!」
ザンフィールは突然目が覚めたようにギリギリの所で体をのけぞらせ、あたしの攻撃を避けていた。
――が、避け切れずに彼の鼻の頭にかすかな傷を負わせる。
その斬り傷から、わずかに血が滴っていた。
「この、コケオドシ女がぁ……!!」
ザンフィールがいきり立って魔法を唱えようとする前に、あたしはこう言ってやった。
「その前に鼻の傷、治した方がいいんじゃない? 鼻血垂らしてるみたいで恰好悪いわよ?」
「…………死ねぇぇぇ!!!! ケムロ――」
ザンフィールがヴァレリーさんに膝を付かせた灼熱地獄の魔法を使おうとした、その刹那。
あたしとザンフィールの間の地面に、勢いよく飛んで来た槍が刺さっていた。
…………槍?
あたしは槍の飛んで来た方向へ目をやると、二人の男女がこちらへ向かって走って来る。
…………あ、あれは……!!
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