第25話「再会」

 駆け付けて来た男女の内、女性の方がザンフィールへ向かって手にしていた棒を振り回して彼をあたしから遠ざけて行く。


 彼女は美しいプラチナブロンドの髪を、腰まであるゆったりとした長い三つ編みにまとめている。


 瞳は宝石のような翠色に輝いており、顔立ちは凛として整っている。


 金の刺繍を施した白い衣装は横に長いスリットが入っており、全体的にボディラインをくっきりと浮かび上がらせるようなデザインをしていた。


「……ちぃっ!!」


 ザンフィールが彼女の攻撃をかわすや否や、今度は男性の方が投げナイフを飛ばしてザンフィールを追い込む。


 ザンフィール炎魔法でナイフに対処している間に、女性の方が流れるような動きでザンフィールに接近戦を挑んでいた。


 ……リィン、リィン……


 彼女が棒を振り回す度に、どこからともなく鈴の音が鳴り響いていた。


「――無事か、レティ」


 女性がザンフィールの相手をしている間、男性の方があたしに声をかけて来た。


 黒髪短髪に黒の瞳、不愛想な表情はあの時のまま――


「…………ゼノ!!」


 彼の服装は引き締まった体躯にフィットした迷彩柄に変わっており、その上からダークブルーのマントも羽織っているが、間違いなくゼノハルトその人だった。


「キュッキュ~ッ!!」


 あたしが彼の名前を叫んだ直後、彼の肩からあたしに向かって小さな物体が飛んで来た。


「え、エミリー?!」


「キュキュキュ~!!」


 あぁ、生きてた……


 エミリーも生きてたんだぁ……


「エミリィィィ~~~ッッ!!!」


 あたしはエミリーを胸の中で抱き締めると、その場にうずくまって涙を溢れさせた。


「――すまん。感動のご対面といきたい所なんだが、その前にアイツを何とかする方が先決だろ」


 ゼノは空気を読まず、ザンフィールを指差していた。


「何者なんだ、あのアイツは?」


「――それはわたくしから説明いたしますわ」


 左腕を負傷したヴァレリーさんがあたし達の元へやって来た。


 ザンフィールについての大まかな説明を聞いたゼノは、苦々しげな表情を作ってこう言い放った。


「――わかった、ちょっとお仕置きして来る」


「お仕置きって、ちょ――!?」


 ゼノはあたしの言葉も聞かず、腰に差していた双剣を引き抜くとザンフィールへ向かって駆け出した。


 さっき、あたしとザンフィールの間に槍を投げたのはゼノだろう。


 次に彼は投げナイフでザンフィールを牽制していた。


 そして今度は、双剣を手にしてザンフィールへ斬り込んでいる。


 ゼノってば、一体どれだけの武器を扱えるのよ?


「レティさん、ご無事ですか?」


 ヴァレリーさんは右手で左腕を押さえながら、あたしの心配をしていた。


「あ、あたしは全然――って、ヴァレリーさんの方が重傷じゃないですかっ」


 もう、この人は自分がこんなになっているのに、人の心配なんかして……


「これくらい、どうって事ありませんわ……教会で治癒魔法を施していただければ……」


 教会……?


 ――あぁ、そうか。


 島には神殿があったけれど、あれは邪竜教のものだったわね。


 魔導士を追い出した大陸で邪竜教が信仰されているはずがないから、きっと大陸では別の宗教が信仰されるに違いない。


 治癒魔法が使えるなら、ヴァレリーさんの火傷も治してくれるだろう。


 あたしがそこまで思い至ると、気付けばゼノとプラチナブロンドの女性があたし達の側で佇んでいた。


「ザンフィールは?」


「逃げた」


 ゼノは一言だけ、そう言った。


「そっか……その、助かったわ。ありがと」


 ゼノは背が高いから、どうしてもあたしは下から見上げる格好になってしまう。


「いや、レティが無事で良かった」


 彼は優しい声色で応えてくれた。


「うん……ゼノも無事で、本当に良かった」


「キュイィ~♪」


 あたしの胸の中で、エミリーも再会を喜んでくれている。


「積もる話もあるだろうが、とりあえずはそっちの彼女の手当てが先だな」


 ゼノはヴァレリーさんの方を見ながらそう言っていた。


「ここからだと、南にあるネムアの町へ向かった方が早いでしょう」


 ゼノと一緒にいた女性の言葉に、あたし達一同は頷いた。


「それじゃあ――」


 ゼノはそう言うと、ヴァレリーさんをお姫様抱っこして歩き始めた。


「ちょ……な、何をなさっているんですの?!」


「暴れるな、傷に響くぞ」


「自分の足で歩けますわ!! おろして下さいまし!!」


「町に着いたらな」


 ヴァレリーさんは口ではああ言っているけれど、本当にイヤだったら重力魔法でゼノが抱えないくらいに自分の体重を重くすればいい。


 そうしないという事は、彼女自身の傷が決して浅くない事を物語っていた。


 あたしはゼノと一緒にいた女性を顔を見合わせて、互いに苦笑するとゼノの後を追いかけた。


 ゼノとエミリーが生きていてくれた。


 それだけであたしの心は溢れんばかりに満たされていたのだった。

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