第19話「抜刀少女の実力」
あたしがヴァリアンターの活動を初めてから1週間が経過していた。
初めは付きっ切りで面倒を見てくれていたヴァレリーさんも、自分のやるべき事があるからと、今はあたしは一人でモンスターを狩っている。
ヴァレリーさんはスペリオルとしてモンスター討伐をする傍ら、病院や孤児院などの慈善事業も運営している。
本当にどこの聖人かと思うわ。
もちろん彼女も人間なのだから、悩みもあれば失敗する時もあるとは思うけれども、それをおくびにも出さない所が格好良いのだ。
「こんにちはー」
あたしはモンスター討伐に一区切りを付けた後、ヴァリアンター協会へとやって来た。
「――あら、レティさん。いらっしゃい」
セリーナさんはカウンター越しから癒し系笑顔を振り撒いてくれる。
美人で有能、性格も申し分なしとくれば男が放っておかないような気もしているのだが、彼女に恋人はいないのだという。
「PRISМのエーテルミナが溜まったので、そろそろ交換したいと思いまして」
「はい、承りました。それでは、身に着けているPRISМはこちらでお預かりいたしますね」
あたしは左手首についているブレスレット――PRISМを外してセリーナさんに渡した。
1週間前に受け取った時は灰色だったそれは、今では眩しいほど虹色の輝きを放っている。
「少々お待ちください。今、エーテルミナの量を測定しますから――――え?」
セリーナさんは小さな球状の計測器具の中にエーテルミナを置くと、そこに表示されている数値を見て驚いているようだった。
「れ、レティさん?」
「何でしょうか?」
「これ、本当にレティさんお一人で集めたのでしょうか?」
「そうですけど……何か変でした?」
「変、と申しますか……」
セリーナさんは困った様子で頬に手を当てていた。
「この1週間でレティさんが集めたエーテルミナをポイントに換算すると……420ポイントにもなるんです」
「はあ」
基準が分からないから、420ポイントがどういう意味を持っているのかあたしには判断出来ない。
「駆け出しのヴァリアンター、しかも魔法が使えないなら1週間で集められるポイントは100ポイントくらいが平均値なんですけれど……」
なるほど。
あたしは基準値の4倍に相当するポイントを集めて来たのね。
「一体、どうやってこんなに集めたんですか?」
セリーナさんは器具の数値とあたしを見比べながら困惑しているようだった。
「どうやってって、普通にモンスターを倒しただけですよ」
「普通にって……どんなモンスターと戦っていたんです?」
「今日はやたらと凶暴な亀とか、めっちゃ素早い巨大蜘蛛とか……そんな感じです」
「ぶ、ブルータルタートルにサベージスパイダーですか?! Dランクのモンスターではないですか!!」
セリーナさんはカウンターから身を乗り出してあたしの顔を覗き込んで来た。
「え、えぇ……確かそんな名前のモンスターだったと思いますけど」
「し、信じられない……」
セリーナさんは
「魔法が使えないヴァリアンターとしては異例中の異例だわ。もしかして、過去最速でEランクへ昇格してしまうのでは――」
「あ、あのぉ……」
あたしは不安になって思わず彼女に話し掛けていた。
「――あ、はい……ええと、何でしたっけ?」
「PRISМの交換をお願いしたいんですけど……」
「そ、そうでしたね。申し訳ありません。すぐに準備いたしますので――」
セリーナさんは慌てた様子で新しいPRISМを渡してくれた。
「ありがとうございます」
あたしは受け取った灰色のPRISМを左手首に装着した。
わずか1週間だというのに、今ではこれが無いと落ち着かないくらいに馴染んでしまっている。
あたし、ヴァリアンターという職業が結構向いているのかもしれないわ。
「ところで、ヴァリアンターって全部で何人くらいるんですか?」
「一昨年に1万人を突破しまして、現在も右肩上がりで増え続けていますよ」
い、いちまんにんっっ?!
ちょっと待って、そんなに多くの魔導士がこの帝国にいるの?!
「ず、随分たくさんいるんですね……」
あたしは控えめにそう言ってみた。
「まあ、1万人とはいっても大陸全土での合計人数ですけれど」
……あ、そうなのね。
ヴァリアンターって帝国以外にもいるんだ。
「それに会員登録だけして活動してない方もいらっしゃいますし、ケガや病気で休業されている方も含めての人数ですから」
そうはいっても、島よりも多い人数の魔導士が大陸には残っているなんて、ちょっと驚きだわ……
「ちなみに、1位の人ってどれくらいのポイントを稼いでいるんですか?」
「それは聞かない方がいいと思いますよ」
「どうしてですか?」
「あの方は特殊過ぎますから……多くのヴァリアンターはその数値を聞くと、絶望して帰られてしまいます」
「ふ、ふうん……?」
なら、あたしも聞かないでおこうかな。
ゼノだったら絶対に掴んでおきたい情報なんだろうけれど。
「あ、そうだ、セリーナさん。あたしの知り合いなんですけど、他の支部で見つかったりしました?」
「ゼノハルトさんでしたよね。申し訳ありません、ロンガリア州にある各支部には登録されてはいませんでした」
「そう、ですか……」
やっぱりそう簡単には見つからないか。
「レティさん、どうか気を落とさないでください。現在、別の州にある支部に調査の手を広げておりますから」
「え……? そんな事までしていただいちゃ、さすがに悪いです」
「これも仕事の範疇ですから。それに将来有望なヴァリアンターのお世話をしていた――となれば、私も協会の中で大きな顔が出来るというものです」
セリーナさんはお茶目にウインクしてそう言ってくれた。
「セリーナさん……」
なんて……
なんて親切なんだろう、この大陸の人達は。
もちろん、全ての人が善人だなんてあたしは思っていない。
そうであればこの街に警察なんていないだろうし、新聞なんて売れもしない。
それでもヴァレリーさんにポーラさん、それにセリーナさんとあたしの知り合いはどうしてか
家族以外の他人から、こんな風に接してもらえるなんて考えてもみなかったな……
「レティさん? あの、どうかなさいました?」
セリーナさんが心配そうにあたしの顔を覗き込んでいた。
「い、いえ……その、セリーナさん達があまりに親切なので、嬉しくて」
「まあ」
セリーナさんは口元に手を当てて笑っていた。
「もしそう感じていらっしゃるのであれば、それはレティさんの人徳といえるのかもしれませんね」
「人徳、ですか?」
「ええ。レティさんはひたむきに頑張っている姿を見ると、私達もつい応援したくなってしまうのかもしれませね」
「お、大袈裟ですよ……」
あたしはただ、エミリーとゼノに会いたいだけ。
それと、おじいちゃんがまだ生きているのなら、会って話がしてみたい。
それくらいの思いしかない。
「そ、そうだセリーナさん。もし知っていればなんですけど、タナシスって名前に聞き覚えはありませんか?」
あたしは気恥ずかしさのあまりに話題を変える事にした。
「タナシスさん、ですか? タナシス・メルクーリ博士の事でしたら知っていると申しますか、教科書にも載っているくらい有名な方ですけれど」
……………………はい?
セリーナさん、あなたは今何と仰いましたか?
おじいちゃんが教科書に載っている有名人?
…………は、はは…………
そんな……まさか、ねえ?
でも、セリーナさんがあたしにそんな嘘を吐く理由がない。
あたしは言葉を失って、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。
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