第18話「スペリオルの実力」
あたしとヴァレリーさんは草原の奥深くへと足を踏み入れていた。
モンスターというのは瘴気の濃い場所にいる動植物が変化したものだと考えられている。
そうしたモンスターというのは基本的に瘴気の濃い場所からあまり動かないのだけれど、稀に人が住まう土地に迷い込んでしまうモンスターもいる。
また、街道などの交通路をウロウロしているモンスターもいるから、 ヴァリアンターの仕事はそうしたモンスターを狩ってエーテルミナに変換し、街のインフラエネルギーに変える事だ。
モンスターが強ければ強いほど彼らが
瘴気が強ければ強いほど、PRISМに吸収出来るエーテルミナの量も多い。
「それではレティさん? よく見ていてくださいましね?」
ヴァレリーさんは草原の適当な所で足を止めると、魔法を唱え始めた。
「『
ヴオ”オ”オ”オ”オ”…………!!
ヴァレリーさんの前方広範囲に渡って空間が歪められていた。
そうか、ああやってこの周辺にいるモンスターをあの空間に集めているのね……!
あたしの予想どおり、モンスター達が吸い寄せられるように次々と歪んだ空間に引き寄せられていた。
その数、おおよそ十数体。
ヴァレリーさんは右手を天高く掲げると、再び魔法を唱えた。
「『
ヴァレリーさんの魔法によって十数体のモンスターは宙に浮かび上がっていく。
そのモンスター達が米粒くらいの大きさになった、その時――
「ハッ!!」
ヴァレリーさんが天に掲げていた右手を振り下ろすと、浮いていたモンスター達が重力に従って地面に叩きつけられていた。
「……うわぁ」
モンスター達はヴァレリーさんの魔法によってあっという間に全滅させられていた。
これがヴァリアンターのトップクラス、スペリオル第5位の実力ってわけね……
「よいですか、レティさん。あそこに倒れているモンスターがキラーラビットです。素早い動きでこちらを翻弄してくるので要注意。その隣にいるのがギガントマンティスですわね。見てのとおり大鎌のカマキリですが、そのしつこさと言ったら――」
ヴァレリーさんは倒したモンスターの特徴について、あたしに説明してくれた。
「――はい、大体わかりました」
ヴァレリーさんの説明を聞いたあたしは、そう答えていた。
「では、手頃なモンスターを引き寄せるとしましょう」
ヴァレリーさんは重力魔法を使って、2体のモンスターを引き寄せた。
「ええと……あれはバーバラスリザードだから、舌としっぽ攻撃に注意、と」
あたしはマジックワンドを握り締めると、デカいトカゲに向かって駆け出した。
「せいっ!!」
あたしの放った逆手抜刀の一撃はトカゲにかわされてしまう。
その隙に、もう一匹のトカゲの長い舌があたしに向かって伸びて来た。
あたしは咄嗟に横に飛んで舌を避ける。
二匹のトカゲはチロチロと舌を出しながら、ジリジリとあたしとの距離を詰めて来る。
こんな時、エミリーがいてくれたら敵をかく乱してくれるんだけどね。
ま、無いものねだりをしても仕方がない。
あたしはトカゲの一匹に向かってマジックワンドの鞘を抜くと、左側にいたトカゲに投げつけた。
左のトカゲが鞘に気を取られている間に、あたしは右側のトカゲに向かって全力疾走する。
トカゲは舌攻撃であたしの侵攻を阻もうとするも、あたしは刀身にトカゲの舌をわざと絡ませた。
「どりゃぁ!!」
あたしは刀身を力任せに
「ッッ?!」
声無き声を発するトカゲの脳天に、あたしは刀を突き立てた。
血を吐きながら、地面に這いつくばった姿勢のままトカゲは沈黙する。
そうこうしている内に、もう一匹のトカゲがこちらへ這い寄って来た。
あたしはわざとトカゲに背中を見せて隙を作る。
トカゲはまんまとそれに引っかかり、あたしの背中目掛けて噛みつこうとして来た。
トカゲの歯があたしの背中に当たる寸前、あたしは右足を軸として半回転しながらトカゲの攻撃をかわすと、そのままヤツの喉元へ刀を突き立てた。
「ッシュッ?!」
何だかよく分からない声を上げながらトカゲはビクビクと何度か痙攣すると、やがて動かくなる。
…………ふぅ。
あたしは倒れたトカゲ達に左手首のPRISМを当てて瘴気を吸収させる。
「――お疲れ様でしたわ」
気付けば、ヴァレリーさんがあたしの投げた鞘を持って背後に立っていた。
「あ、ありがとうございます」
あたしは鞘を受け取ると納刀して、元のマジックワンドに戻した。
「最後のは少々ヒヤっとしましたけれど、あれはワザと隙を作ったんですのね?」
さすがヴァレリーさん、わかってらっしゃる。
「ええ、まあ。これくらいのモンスターなら負ける気がしません」
「油断は大敵ですけれど、概ねその自己認識は正しいと思います」
ヴァレリーさんはあたしの言葉に頷いてくれた。
「今のトカゲは何ポイントなんですか?」
「バーバラスリザード一匹につき3ポイントですわ」
――という事は、トカゲ一匹でバッタ三匹分なのね。
やっぱりバッタやムカデを相手にするより、もっと強いモンスターと戦った方が効率がいいわ。
「もう少しこの辺で戦ってみましょうか。ギガントマンティスがFランクでは一番強いモンスターですから、アレを楽々倒せるようになりましたらEランク級のモンスターと戦ってもよいと思いますわ」
「はい、ご指導よろしくお願いしますっ」
あたしはビシっと敬礼すると、ヴァレリーさんは愉快そうに微笑んでくれた。
彼女は三人兄妹の末っ子らしいのだけれど、もしあたしに姉がいたのなら、こんな感じだったのかな。
そんな妄想をしながら、その日は一日中モンスター討伐をして過ごしたのだった。
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