第15話「特殊魔法」
「……あぁぅ……」
百貨店で買い物を終えたあたしは、カフェのテーブルに突っ伏していた。
最初に連れていかれたランジェリーショップでこれでもかってくらい胸やお尻のサイズを測られたあたし。
試着室で店員さんから「豊かで美しいバストだ」だとか「理想的なヒップらいんだ」とか、ウソか本当かよくわからない褒めちぎられ方をされてしまった。
恥ずかしいったらないよ、もぅ……
その後もヴァレリアーナさんはあたしに似合う服装を探してくたりもしたのが、結局購入して貰ったのは下着だけで、服装は以前のままで落ち着いた。
「どうされたのですか、レティさん? 随分とお疲れのようですけれど?」
ヴァレリアーナさんは買い物疲れというものを知らないのだろうか、悠然と黒い飲み物――コーヒーというらしい――を飲みながらあたしを気遣ってくれている。
「い、いえ……大丈夫です……」
あたしはゆっくりと顔を上げると、カフェラテという飲み物に口を付けた。
……ちょっと苦い、けどほんのり甘い。
コーヒー豆とミルクの香りが鼻から抜け出て来ると、沈んだ気分もシャキっと立ち直らせてくれる。
ちなみにポーラさんはあたし達が買い込んだ服やらお菓子やらを抱えて馬車でお屋敷へと戻っており、今はヴァレリアーナさんと二人っきりだ。
「それにしても、レティさんは本当にスタイルがよろしいんですのね。一体、何を食べたらそんなにグラマラスになれるのかしら?」
ヴァレリアーナさんはあたしの胸をマジマジと見つめて来る。
「さ、さあ……」
あたしは胸を両腕で隠すようにして、曖昧に返事する。
そういうヴァレリアーナさんこそスタイルは抜群で、同性のあたしから見ても魅力的なプロポーションをしている。
外見も、内面も、他者からの評価も、魔法の実力も、何もかもが完璧すぎるヴァレリアーナさん。
どうしてそんな人があたしなんかと一緒にいるのか、不思議で仕方がない。
「ところで、レティさんの探し人は見つかりまして?」
ヴァレリアーナさんはスタイルに関する話題が打っても響かないと知るや否や、話題を変えて来た。
コミュ力も一級品の彼女、益々尊敬してしまう。
「いえ、見つかりませんでした……」
今日、あたしはランジェリーを買いに街へ繰り出したわけではない。
エミリーとゼノの手がかりを探す為に来たのだ。
ヴァレリアーナさんがあたしが身に着けていた下着が女性としてはあまりにも……というので、人探しをしながらショッピングを楽しもうという彼女の提案に従ったのである。
「そうですか……」
ヴァレリアーナさんも残念がってくれている。
この数日の滞在費や今日のお会計も全てヴァレリアーナさんが出してくれている。
さすがに申し訳ないので「お金はいつか必ずお返しします」と言ったら、彼女はこう返して来た。
「わたくしに恩返しなど不要です。どうしてもと仰るのであれば、レティさんと同じように困っている別の方へ返してあげてください」
ああもう、どこまでも完璧過ぎる彼女。
こうしてカフェでコーヒーを飲んでいる今も、人々からの彼女への視線が止む事は無かった。
「これだけ人が多いと、闇雲に探していても見つからないのかもしれません」
あたしは正直に、思った事を言ってみた。
「そうですわね……一応、警察には捜索願を出してはいるのですけれど、今の所は音沙汰無しですわ」
本当にこの人には何から何まで頭が上がらない。
今日だって百貨店であんな――
と、そこまで考えてあたしは重要な事を彼女に訊く事にした。
「そ、そういえばヴァレリアーナさん」
「ヴァレリー、で結構ですわ」
彼女はにっこりと、しかし有無を言わさない調子でそう言った。
「じゃ、じゃあヴァレリーさん。さっき百貨店で使ってたのは、その……魔法、ですよね?」
あたしがいた島の魔導士は皆、大陸から逃れて来た魔導士の末裔だ。
だから、大陸にはもう魔導士は残っていないと思っていたのだけれど、彼女は人前で堂々と魔法を使っていた。
つまり、大陸ではまだ魔法は廃れていない。
それどころか、彼女が使っていた魔法は――
「ええ、重力魔法ですわ」
――やっぱり。
これはとんでもない事である。
この世界において魔法とは全部で21種類あると言われている。
基本魔法7つ、応用魔法7つ、そして特殊魔法の7つだ。
例えば、四大属性の火魔法や水魔法は基本魔法に分類されており、おばあちゃんが使っていた治癒魔法も基本魔法の一つである。
ゲオルゲスが使っていた木属性魔法なんかは応用魔法に分類される。
そして、最長老様が使用されていた結界魔法やヴァレリーさんの重力魔法が特殊魔法と呼ばれている。
特殊魔法はその使い手が極めて少なく、例えばヴァレリーさんの重力魔法はあたしのいた島にその使い手は存在しなかった。
特殊魔法が使えるというだけで、魔導士としての実力は相当なもののはず。
「重力魔法が使えるなんてすごいですね……もしかしてヴァレリーさんが仰っていた『スペリオル5位』というのは、モンスター討伐ランキングの順位の事だったりしますか?」
「モンスター討伐ランキング、というのは正式な名称ではありませんけれど、概ねその理解で正しいと思いますわ」
やっぱり……!!
あたしはどうしてこの数日間、この事に気付かなかったのだろう。
ゼノは言っていたじゃないの。
モンスター討伐ランキングで1位なる為に生きていると言っても過言ではない、と。
もしゼノが生きているのであれば、必ずランキングに参加しているに違いなく、彼と一緒にエミリーもいるはずなのだ。
ヴァレリーさんもランキング参加者で、しかも5位というトップランカーの一員である。
この繋がりは活用しない手はない。
「――ヴァレリーさん。重ね重ねの厚かましいお願いで大変恐縮なんですけれど……」
あたしはテーブルのスレスレまで頭を下げて、彼女にこう懇願した。
「あたしも、そのモンスター討伐ランキングに参加させて下さい――!!」
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