第3話「対人戦」
「へ……ヘンタァァァァァァァァイッッッ!!!」
あたしは山中に木霊するような大声で絶叫していた。
突如現れた全裸の男とあたしの絶叫に
「こ、このガキ……!」
我に返った取り巻きの一人が魔法を放つ。
「『
氷状の槍があたしに向かって一直線に飛んで来る。
あたしはすんでの所で氷槍をかわすと、術者へ肉薄してその
「ぐぉ……っ?!」
彼はうめき声を上げると、その場で気絶した。
「な、何やってんだ! 早く捕まえろ!!」
焦るゲオルゲスの声に従い、残った二人の取り巻きが左右からあたしを挟み撃ちにしようと魔法を唱え始めた。
「――がっ?!!」
不意に、あたしの左側にいた取り巻きが後方に吹っ飛ばされると、大木に激突して意識を失っていた。
「な、何が起こった?!」
あたしの右側にいた取り巻きが動揺している隙に、彼へと接近して低い姿勢から逆手で抜刀する。
「ローズ流抜刀術、『
下段から孤を描く斬り上げ一閃。
「があぁっ?!」
取り巻きの一人は腹と顔面を斬られて、血を噴き出していた。
「死ぬような傷じゃあないけど、早く治癒魔法をかけてもらった方がいいわよ。でないと、傷跡が一生残っちゃうかもね?」
「ぐ、ちっくしょう……!」
取り巻きの一人は顔の傷を手で押さえながら、山を下っていった。
「まだやるつもり、ゲオルゲス?」
「このクソレンティがぁ……!」
あたしの名前はラヴレンティだっての。
ゲオルゲスは魔法を発動させる態勢に入っていた。
やれやれ、懲りない男ねえ……
「もう容赦しねえ、食ら――んだっ?!」
ゲオルゲスは魔法を唱える前に、全裸の男に背後から首筋に手刀を浴びせられて気絶した。
「……ありがと、助かったわ。さっき風魔法で取り巻きを吹っ飛ばしたのもあなたでしょ?」
あたしは全裸の男に感謝する事にした。
素性は知れないけれど、助けてくれたのは事実だ。
「気にしなくていい。単なる気まぐれだ」
気まぐれ、ねえ……?
「――ていうかあなた、その……前くらい隠しなさいよ?」
全裸の男は堂々とナニをブラ下げたまま、あたしと普通に会話しようとしていた。
あたしは思わず顔を逸らす。
「服を着てないのは不可抗力だ。ったく、あのヘッポコ女神め……」
女神……?
何を言ってるんだろう、この人は。
全裸の男は倒れている取り巻きの一人から服を奪うと、それを着用していた。
「キュゥゥ~……」
胸の中でエミリーが心配そうにあたしを見上げていた。
「あ、ごめんごめん。もう大丈夫だから、出て来ていいわよ」
エミリーは服の中から這い出ると、定位置であるあたしの肩上に陣取った。
「――いいぞ」
服を来たらしい男はあたしに向かって声をかけていた。
あたしが彼の方を振り向いた。
……よく見るとこの人、かなり端正な顔立ちをしている。
年齢は20歳前後といった所だろうか。
黒髪短髪で地味な印象かと思いきや、人を惹きつけるような澄んだような瞳をしており、身体もそれなりに引き締まっている。
そこで転がっている豚のようなゲオルゲスとは雲泥の差である。
「あなた、島では見かけない顔だけれど……どうしてこんな所にいるの?」
「島? ここは島なのか?」
えぇ、ウソでしょ……?
この島には結界魔法が張られており、島から外へ出る事はもちろん、外部から島へ侵入する事もかなわない。
実際この300年の間、島の外から人が入って来た事例は一つもない。
……島から出て行った人は、一人だけいるのだけれど。
「島の外から来たの? どうやって結界を破って――」
いや、ちょっと待って?
島の結界が破られたのなら、術者の最長老様が気付かないはずがない。
最長老の孫であるゲオルゲスがその事を話題にもしなかったから、結界が破られたわけではないのだ。
じゃあ、この人はどうやって島の外から侵入して来たというの……?
「まあ、色々あってな」
……怪しい。
めっちゃ怪しいよ、この人。
全裸で現れた事も、島の外から来た事も、魔法が使える事も――存在全てが
……まあでも、あたしを助けてくれたしね。
これ以上、深堀はしないでおいてあげよう。
今は、ね。
「取り敢えず山を下りない? あたしの家でお茶くらいなら出すわよ?」
男はしばし逡巡した様子を見せてから、こう答えた。
「そうさせてもらおう」
こうしてあたしと元全裸の怪しい男は、二人揃って山を下りた。
「そういえばあなた、名前は何て言うの?」
「名前? ……じゃあ、ゼノハルトで」
じゃあって何よ、じゃあって。
まるで「今、考えました」と言わんばかりじゃないの。
それにゼノハルトなんて、この島では聞いたの事ない名前だわ。
「そっちの名前はクソレンティでいいんだよな?」
「いいわけあるかっ」
さっきゲオルゲスが呼んでたのを覚えていたのね、もう。
「あたしは名前はラヴレンティよ。ラヴレンティ・ローズ。こっちはコガネリスのエミリー」
「キュッキュ~♪」
エミリーは愛想を振りまくように可愛い鳴き声を出していた。
「そうか。よろしく」
ゼノハルトと名乗った男は律義にもエミリーにも挨拶していた。
動物好きに悪い人はいないとは言うけれど、彼はどうなんだろう。
あたしの背後からついて来るゼノハルトをチラ見しながら、そんな事を考えていた。
「――さ、着いたわ。ここがあたしの家よ」
あたしがゼノハルトに紹介して見せた家は、年季の入った木造家屋だった。
「こんな山の
こんな、で悪かったわね。
こっちだって好きでここに住んでるんじゃないっての。
「おばあちゃんとエミリーと一緒に暮らしてるわ。さ、入って」
あたしは玄関扉を開けて、家の中に入った。
「おばあちゃ~ん、ただいまぁ~」
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