6話 最後のひとりは(1)

地球 TM24-09/西暦 2940年




 光の中から、人影が現れる。


「…うわあ、食い意地がすごい…」


 光の中から現れたティムの第一声があたりに響き渡った。それに対して、レジーナは、完食できなくて残念と肩をすくめた。


「今度は意識があるままタイムトラベル先についた」


 レジーナが言うと、ティムは、前回はきみのせいだよと呆れたように言う。


「突然飛ぶと、不安定さが増すんだよ」


 だから、やめてよね!と目尻をちょっぴりつりあげた。


 レジーナは、鬱陶しそうに掴まれていた腕を振り解く。そして、ティムの頭の先からつま先まで舐めるように見て、話を逸らした。


「あんた今にも死にそうだね」


 今度のティムはヒョロヒョロで長髪、髭も仙人のように長く、乞食のような出で立ちだった。一方、レジーナは、相変わらず、ちゃんとした服を着ておらず、タンクトップとハーフパンという初期設定みたいな格好だった。


「たしかに。きみも初期アバターみたいだね」


 ティムが言うと、レジーナも、たしかにと頷く。


「あ、みて」


 思い出したかのようにティムは、肩にかかった鞄をレジーナに見せた。前に言っていた通り、飛ぶ前には、近くになかった荷物が戻ってきていた。それから、ティムは鞄を漁り、コンパスを取り出し神妙な顔をした。


「うーん、残り時間10年もある。でも、見て。点滅しているでしょ」


 と、レジーナにもコンパスを見せる。彼の言う通り、残り時間のメモリがチカチカと点滅し数字が定まっていないようだった。この場合は、見ての通りで、時間が確定していないと言う意味。何もなければ10年なのだが、本来起こり得ないイレギュラーのせいで、滅亡の時が、10年より早まる確率が極めて高い。つまりは、このタイムトラベラー二人によって人類滅亡が早まると言うことであるのだが…。


 そんなことに気づくはずもなく二人揃って頭を捻るだけだった。考えても無駄だなと、ティムはコンパスを閉じ鞄にしまった。それから、ティムは、深呼吸をして、あたりを見渡して言う。


「というか、久々に過ごしやすい土地に来たね」


 今度の土地は、日当たりが良く、綺麗な青空。清々しい空気だが、あたりを見渡すと、高層ビルやビジネス街、百貨店のような大型店舗など大都会の街並みが、全て廃墟と化している。さらに崩れた建物は、緑に覆われ、至る所から立派な木々が青々と生えわたる。文明は崩壊しているが、“自然”の再生の土地と言えた。二人は、そんな廃墟の一つ、14階建てのビルの屋上にいた。


「ザ・ディストピアって感じ」


 ティムが伸びをしながら言った。


「綺麗だね」


 レジーナも深く息を吸い込み腕を伸ばした。ティムは、床に寝そべると目を閉じた。レジーナも真似して横になる。鼻から大きく息を吸うと、草原で感じるような爽やかな時間が訪れる。


 ゆったりとバカンスを楽しむ二人だったが、急にレジーナが飛び起き、下を覗き込んだ。なにごとかと、あとに続くティムに向かって、レジーナは、体勢を低くして進むように言う。


「誰かいる」


 レジーナが指す方向を見ると、白髪で長髪の人間が廃墟に入っていくのが見えた。


「追う」


 そう言うと、レジーナは階段を駆け降りていった。


「ちょ、まってよ!」


 ティムが追おうとした瞬間、レジーナが戻ってきた。階段が崩れて下に降りられないらしい。レジーナは今度は屋上の淵に立った。ティムは、慌ててレジーナに近づく。


「なにしてん…うお!」


 レジーナは、ティムの腰に腕を回すと、そのまま飛び降りた。


「しししっしししっ死んじゃうううう〜」


 ティムの絶叫に反して、静かに着地を決める。着地の瞬間、黒い霧のようなものが見えた気がしたが、ティムは、そんなことに気が回らないぐらい動揺していた。


 レジーナはティムから手を離すと白髪の人間の後を追い、建物中に入っていった。ティムは、レジーナに追いつこうと必死に震える足を動かす。


 廃墟に入ると中には、意外にも畑が広がり、立派な作物も実っていた。レジーナは、畑の中に慎重に入っていく。そして、ぷっくりと大きく実ったトマトに似た赤い実をもぎ取り口にれた。


「うま」


 口の中に、甘くてジューシーな味が広がる。たまらず、隣の実にも手をだす。そして、かじる。そんなことを繰り返していると、後ろからしゃがれ声が飛んでくる。


「おい!おまえ、何をしてる!」


 レジーナが振り向くと、追いかけていた白髪の人物がいた。レジーナは、食べる手はそのままで、相手をじっくりと観察した。その人物は、70歳ぐらいの老婆に見えた。顔はしわしわだが、背中も腰もぴんとして身体機能は見た目より遥かに若そうな様子。


 レジーナは、なんて声をかけたらいいかと一応は考えていた。だが、食べることに脳みそを取られてしまったため、


「これ、おいしい」


 モグモグと口を動かしながら、老婆に自分が食べていたものを差し出した。


「こ、この泥棒め!!!」


 老婆は、レジーナの非常識な態度に怒りを隠しきれないでいた。その時、やっと中に入ってきたティム。この様子を見て、また何かやったのかと、レジーナに辟易へきえきとし、自分が巻き込まれないように、できる限り気配を消した。


 老婆の顔が、レジーナが盗み食った果実よりも真っ赤なので、レジーナは老婆の血圧が心配になり、ようやく謝罪をする。


「勝手に食べて、ごめんなさい」


 それを聞いたところで、老婆の怒りは当然おさまらず、顔は赤いまま。


「対価が必要だ」


 老婆が口をひらく。


「たしかに。でも、わたし何も持っていない」


 レジーナは老婆の言葉に同意をするが、自身の格好を見せ理解を乞うた。


「じゃあ、ゲームをしよう」


 老婆がポツリと言った。老婆は、ゲームが大好きだと言う。しかし、一人になって大分長いため、しばらくはゲームができていなかった。しかも、一気に二人も対戦できるなんて最高だと笑った。


 ティムは、自分も数に入れられていることに驚いた。気配消しはできていなかたったようだ。さらに、老婆が最後の生き残りなら、老婆の寿命の長さが10年と言うことか、これを見届けるまでいなきゃいけないなんてと、ちょっとだるさを感じた。


 「いいよ、何のゲーム?」


 レジーナは、何だゲームか、楽しそうと思い返事をした。レジーナの言葉に老婆は笑う。


「すぐにわかるさ。まずは1分やる。私から離れて隠れろ。見つかったら逃げろ、捕まったらお前たちの負けさ」


 老婆の説明を聞いてレジーナは、かくれんぼと鬼ごっこが合わさった感じかなと呑気に考えていたが、ティムは、老人なのに体力勝負のゲームをやるなんておかしいと思った。さらに、老婆の笑顔がどことなく不気味で身震いをした。


「じゃあ、始めるよ。1、2、3…」


 老婆がカウントをし始めた。二人は、今いる廃墟から外に出た。




つづく



______


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