5話 白の中のバトロワ(3)
今度の沈黙をやぶったのは、六人の男たちの足音。レジーナの攻撃は静かに素早く行われたのだが、そのあとのお説教による小競り合いが思いのほか騒がしく、男たちに異変を察知させてしまった。
それでもレジーナは、敵なしだからなのか、ただ神経が太いだけなのか居直り男たちを正面から迎え撃った。ティムは、こっそりレジーナの後ろに隠れる。
「お、おまえどうやって外に…。は!ゴメズ!ジョージ!」
男たちのうち、最初に会った大男が悲鳴をあげる。
「お前たちがやったのか?よくも…」
大男が膝をつき、死んだ二人の脈をはかり言う。
「どうせ必要なのは二人分の肉でしょ。私たちである必要はない」
レジーナは、大男を見下ろし言葉を続ける。
「リーダーはあなた?今日からは私の言うことを聞きなさい」
「ちょ、何言ってんの?」
レジーナの宣言に、驚くティム。男たちはお互いに顔を見合わせる。
「いくつか聞きたいことがあ…」
レジーナの言葉を遮り、男たちのうち一人がレジーナに襲いかかった。が、即座に制圧される。そして、レジーナは男の首に腕をかけ締めあげる。
「あんた死にたいの?死にたくないなら、今からいいって言うまで動かないで。もちろん、全員」
無謀な挑戦者は、ギリギリと締め付けてくる腕を叩きながら、必死に頷く仕草をする。それを見て、レジーナは腕を緩めて、男を仲間のもとに突きやった。
「それで、あんたたちは食糧がなくて仕方なく人間を食べてるの?」
率直なレジーナの質問に、辛い思い出でも思い出したのか、数人の男たちは涙を流し鼻をすすっり始めた。
「そうだ。一ヶ月前から食料が突き、仕方なく食った」
大男が答えた。
「それで、どうやって決めたの?」
レジーナが再度問う。
「多数決」
大男が再び答える。大男以外の男たちはmもれなく全員泣いていた。
「多数決?不公平。正直、あんたが一番可食部が多いけど、抵抗されたら敵わないから選びづらい」
レジーナが眉をひそめて言った。あとは、同調圧とか…と口の中で呟きながら、何かを考えるそぶりを見せた。
「うん、これからは何かゲームで決めな。ちゃんとトーナメント組んで、負け残りで」
さらに、ある意味での優勝者が決まるごとに勝敗はリセットされることも条件に入れ、今から始めるようにと促した。
「ゲームも得意不得意あるから公平じゃないけどね」
レジーナの後ろでティムが唇をとんがらせながらポソっと言った。それを聞いてレジーナは、勢いよく振り向く。
「抵抗のチャンスがないより、ましじゃない?」
レジーナが後ろを向いた瞬間、男たちが飛びかかった。が、しかし、レジーナは、くるっと向き直ると、一人一人に強烈な頭突きをかました。
ドゴンッ!!!!
男たちは音を立てて地面に落ちる。うめきながら体を起こすと、体が少し硬い土に埋まっているのに気づいた。
「あんたたちは、わたしに勝てない」
レジーナは、正義のヒーローのごとく台詞とポーズを決めた。背後には、呆れ顔のティム。男たちは、痛みで震える体を支えながらゆっくりと起き上がる。
そして、ようやく抵抗を諦めたのか、地面に絵を描きオセロゲームを始めた。それを見てレジーナは、今年は畑の調子がいいから立派な野菜ができるぞと満足そうな農夫の顔をする。その後、ティムに声をかける。
「いくよ」
レジーナは、近くにあったナイフと袋をこっそり拝借すると、男たちに背を向け奥の方に向かって歩き出す。
「どこに行くの?」
ティムの問いかけに答えはない。そのまま後ろを付いていくと穴の端にたどり着く。すると、レジーナは、手に持ったナイフを壁に突き立て、土を掘り始めた。しばらくすると今度は下に、さらに次は上へとあらゆる方向に穴を拡大していく。ティムも気持ちばかりでも手伝おうと手で土をかいた。
「やめて。怪我したら困る。ついてくるだけにして」
ティムは、レジーナの強めの制止に手を止める。それからは、ただ後ろを付いて歩くだけになった。
レジーナは相変わらず掘る。掘る。掘る。
そして、掘る。また、掘って掘る。さらに掘る。
掘って、掘って、掘って、掘る。
また、掘って、掘って、掘って…。
ぐさっ
ボロボロになったナイフに何かが刺さった。レジーナは慎重に周りを掘り進める。すると、ようやく、それが姿を表す。ナイフの先に刺さったものを見て、レジーナの顔が輝く。
「いた!いたよ。あ、まだいっぱいいる!」
嬉しそうに袋に詰めていく。ティムが覗き込む。
「…むし?すごいね!まだ生物がいたなんて」
彼女が探していたものは、『虫』だった。虫なら人間が住めなくなった土地でも進化を続け生き残っているんじゃないかと推測をし、ただひたすら穴を掘り続けていたのだ。
「よし、戻ろう」
あたりの虫を集め終わると、迷路になった穴を引き返す。心なしか弾むレジーナの足取り。穴を抜け元の場所に戻ってきた。男たちがいるであろう中央に向かうがどこか様子がおかしい。あまりに静かすぎるので、レジーナは警戒したが、すぐに理由がわかり足取りが重くなる。六人の男たちがいた焚き火の前には、あの大男のみが座っていた。レジーナは大男の肩に触れる。
「ねえ。生きてる?」
「ああ、かろうじてな。今までどこに行ってたんだ?」
大男が振り向くと、ティムは小さな悲鳴をあげた。大男の左腕と両足の膝から下がなくなっていた。
「なにがあったの?こんな短期間で五人だけでなく自分も食べちゃうなんて」
レジーナが珍しく悲しそうな顔をして聞く。
「短期間だと?お前たちが消えてから、だいたい三ヶ月たったんだぞ。お前たちにとって、三ヶ月は短期間なのか?」
大男の目に涙が滲む。レジーナとティムは三ヶ月と聞いて空いた口が塞がらない。絶句も絶句。大絶句…。
「三ヶ月も経ったなんて…」
レジーナはそういえば体がだいぶ疲れている気がするなと思った。ティムもそういばお腹がすごい空いたなと思った。普通の人間なら、掘った穴の時空が歪んでいたのかと場所に疑いを持つだろうが、なんせ彼らは普通ではないし、ツッコミも不在のため、「すごい時間使っちゃった。やっちゃった」と思うだけであった。
「そっか…。それで生き残ったのがあなたなのね」
レジーナは、そういうと大男の近くに腰を下ろす。そして、これとってきたのと虫を串に刺すと焚き火に当て焼き始めた。こんがりといい色に焼き上がると、レジーナが一口かじった。
「うん!うまいし、毒もなさそう。これ食べて」
レジーナは、大男に新しい串を渡す。大男は震える手で虫を口に運んだ。ガブっとかぶりつくと、
「うまい。うまい」
と、涙を流し始めた。そして、少し声を上げて笑った。しばらくして、落ち着くと肩を落として目を閉じた。大男は、そのまま動かなくなった。
それから、僅かな時間が経ち、ティムの体が光り始める。ティムはレジーナの腕を掴む。レジーナは最後の一口と虫にかぶりつく。その瞬間、二人は光に吸い込まれた。
後に残ったのは、座ったままの男の亡骸と赤く燃える炎に、歯形のついた虫の串焼きだけだった。
地球 CY01-8931/西暦 1930年
人類滅亡。
つづく…
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(ティム's メモ)
極寒の雪の中で食糧難に陥り、生き残るために、人肉食べる話をよく見るけど、その逆の灼熱の砂漠で、しかたなく人肉食べる話ってあまり知らないなと思った。やっぱり、暑いと腐りやすいから人の肉食べてみるって発想にならないのかな?
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