収穫祭を待って
無事に戦闘を終えた三人はギルドへ戻るのであった。
「案外オーガの数多かったね」
システィがそう言う。
最初は四〇体ほどの予定だったのだが、最終的には六〇体にまで増えてしまったのだ。二〇体増えたところで、困難になるはずもなく普通に達成した三人であった。
「まぁ予想よりも多いとは考えていたがな」
「ええ、それでも苦労するほどでもなかったわ」
もし、あの状態で一〇〇体ほど増えてしまったらどうなったのかわからないが、無事に依頼を達成できたのは喜ぶべきだろう。
そう三人は考えながら、王都に入る門をくぐる。
王都に入ると明日の感謝祭のために色々と準備が始まっていた。
大通りには装飾が施されており、明日から華やかになるのは目に見えていた。そして、商店街の方でも商品の並び替えなども行っていた。
「意外と変わっていくのね」
「ああ、その様子だな」
ユイとアルフェルトはその変化していく通りを見てそう感想を呟く。
当然街の様子は以前と比べかなり変化しており、明らかに華やかになっている。
「明日は楽しくなりそうだね」
そんな数々の装飾を眺めながらシスティは明日のことを考え始める。
どのような場所に行くか、また何を食べるか。そう言ったことは考えるだけで時間が経ってしまう。
「システィは楽しそうだな」
「当たり前でしょ? 楽しくないわけないじゃん」
「そうね。しばらくは戦いの毎日だったけど、明日ぐらいは休む方が良さそうね」
確かにこの世界にやってきてから大半は戦闘であった。
体も少しは休ませる必要もあるため、明日は休みにしようとユイは提案する。
「うんうん、さんせー」
「そうしようか」
続けてシスティとアルフェルトも賛成の意を表する。
明日は光り輝いているだろう装飾を眺めながら、通りを歩いているとすぐに迷い猫の宿に着いてしまう。
日も暮れてしまっており、宿の中からは香ばしい匂いが漂っている。
そんな匂いに誘われるかのように三人は宿の中に入る。
「おかえりなのにゃー」
すると、すぐにテルミーが声をかけてくる。
いつも元気な彼女は今日も同じく元気なままだ。
「「ただいま」」
その言葉に応えるように三人も返事をする。
「今日はお肉料理なのにゃ、もうすぐ帰って来ると思って先に準備してたのにゃ」
そう言うとテルミーは奥の調理場に向かった。
「美味しい匂いしてるし、楽しみだね」
「そうだな。いつもいつも新しい料理を作ってくれてありがたい」
システィとアルフェルトは毎日変わる料理を楽しみにしている。
システィは食べるのが好きで、アルフェルトは料理というものに縁がない暮らしをしていたから、興味があるようだ。
「毎日が新しい味で飽きないわね」
そして、ユイも食べることは好きなようだ。
二階に上がって荷物を部屋に置いた三人は階段を降りて、食堂に向かう。
「夕食が出来上がったのにゃ」
食堂の奥からテルミーが声をかけて来る。
先ほどよりも香ばしい匂いが立ち込めており、料理が出来上がっていることがわかる。
その言葉を聞いた三人はそのまま席に着く。そして、テルミーが料理を三人分テーブルに並べてくれる。
どうやら今日はステーキを作ってくれたようだ。香草のソースをふんだんに使ったステーキの香りは食欲を掻き立てるに十分であった。
「おいしそー」
システィは肉料理が大好きなようで、料理を見るなり目を見開いて早く食べたいと言う反応を示す。
「ふふーん、今日は珍しい香草が手に入ったからいつもより違った風味を楽しめるにゃ」
「なるほど、感謝祭の前日だからか」
「そうにゃ! それでは楽しんでくださいなのにゃ」
そう言ってテルミーは厨房に向かう。
テルミーいわく、今日の味付けは珍しいようだ。三人はナイフでステーキを一口サイズに切り、一口食べる。
「少し酸味のある味ね」
ユイは口に入れてすぐにそう感想を言う。
「ああ、それが脂っこさをかき消しているとも言える」
「うんうん、さっぱりしてるよね」
香草を使ったスープにはレモンも入っているため、少し酸味があるもののしっかりと香草で味付けされた肉は柔らかく、そして香ばしい。
肉料理とともに出されたサラダもその珍しい香草で作ったドレッシングがかかっており、非常にいつもとは違った味わいとなっていた。
それから料理を完食した三人はテルミーに食器を受け渡し、部屋に戻る。
「今日の料理は美味しかったね」
「特にサラダが良かった」
「そうね。この宿は料理の幅が広いからね」
三人はこの迷い猫の宿がいかに凄いのか理解している。一人で経営している上に料理の幅が広く、そして対応も丁寧。このような宿は他にはないだろう。
「明日は感謝祭! それも楽しみだね」
「祭りごとはよく知らないのだが、興味はある」
アルフェルトは以前の世界ではずっと図書館でこもっていたために外の世界をあまり知らない。
「私も毎日忙しくて祭りに行く暇なんてなかったわ」
どうやらユイも魔王討伐で必死だったようで、祭りをゆっくりと楽しんだりはしなかったようだ。
「そうなの? これからはいっぱい楽しもうね」
そうシスティの笑顔は無邪気でいて、二人までそれに釣られそうになる。
「ああ」
「そうしましょう」
三人は明日の収穫祭を楽しむことを決意し、ベッドに眠るのであった。
三つの世界からこんにちは! 結坂有 @YuisakaYu
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